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怒り
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「……。」
唇を離すと、静寂が訪れた。
双方何も言うことなく、自然と体が離れていく。
突き飛ばすでもなく、逃げるでもなく、
ただ私の腕に抱かれたまま、
兄は、弟を見上げる。
「…ごめんな」
唇から漏れた一言は、予想外の言葉だった。
罵られる。軽蔑される。
あるいは、兄弟の縁を切るとまで言われるかもしれない。
そこまで読んでいた私にとって、兄のその微笑みは、
どこか罪悪感さえ起こさせる、切なげな表情に見えた。
「…どうして」
問いかけると、兄は軽く首を振った。
「…知ってたんだ。君が、僕を…――」
愛していたってこと――。
「…じゃあ、何で」
「僕も君が好きだ。だけど僕は、君の思いに応えられない」
「…男同士…だから?」
「それもある」
「兄弟だから?」
「もちろん、それも」
兄は私の腕の中で、柔らかな拒絶の言葉を吐く。
私の問いに答えながら、兄はそっと私の腕をすり抜けようとする。
指が、掌が、私の体を押し返し、そして――
「幹久、もう僕のことは忘れてくれ。もうすぐ、目の前から居なくなるからさ」
――そんなふうに、笑う。
――だけど。
「俺は…――眞人を、何処へもやりたくない!!」
突きあげたのは、衝撃だった。
拒絶された絶望でも、悲しみでもない。
怒り――。
それが、その時の私の感情に、最も似通ったものだった。
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