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抱擁
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「なんてこと…!」
「あぁ眞人坊ちゃん、お労しい…!」
雷に打たれたように静止する背後で、家のものが悲鳴にも似た声をあげた。
それでも眞人は困ったように笑い、皆、心配かけてごめん、大丈夫だから、と明るく声をかける。
六年間跨がなかった敷居を車輪で踏もうとして、眞人はバランスを崩した。
あ、と思うより先に、体が動いていた。
咄嗟に眞人を抱き上げ、ひっくり返ってカラカラと音をたてる車椅子を見下ろす。
抱き上げた眞人の身体は、思ったよりずっと、軽くなっていた。
「ま…さと、眞人…」
ぽつり、と耳元で呟くと同時に、目頭から熱いものが溢れた。
涙を流すのは、小学生以来のことだった。
飾りのように力なくぶら下がる足も、痩せた身体も痛ましかった。
もう人目など気にすることもできず、私は強く眞人を抱きしめた。
大人しく抱かれていた眞人の手が、ゆっくりと背中に回り、ぽん、ぽん、と私を宥める。
「…大丈夫。大丈夫だよ…幹久」
そう呟く眞人の声も、少しだけ震えていた。
茫然としていた女中たちがようやく車椅子を起こしてくれたため、私はそっと眞人を車椅子に座らせた。
うっすらと涙の浮かんだ黒い瞳が、一瞬、私を見上げる。
キスしたい。燃え上がるような衝動が襲ったが、行動に移す前に、眞人がふいと視線を外した。
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