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晩酌
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眞人は日本に家を買い、永住するつもりだという。
アメリカでの暮らしは結威には生き辛く、出来るなら日本で育てていきたいのだと。
父はこの話には両手を挙げて喜び、すぐに近所に家を買うと言ったが、
実は有紀子の妹の嫁ぎ先の真ん前のモデルハウスが気に入ったため、そこを買うのだと断られた。
実家から電車で4、5駅程度の距離で、そう遠くはない。
その日は眞人の一家が初めて家に泊まった。
晩酌をしながら、前回の公演のビデオを一人眺めていると、リビングに車椅子が入ってきた。
結威の誕生を機にバリアフリーにしたため、眞人は苦もなく過ごせているようだった。
遊び疲れて眠った結威につられて、有紀子さんも眠ったという。
柚子も興奮して眠らない子供たちを寝かしつけに行っているため、これ幸いと、私たちは杯を酌み交わした。
思えば、眞人と酒を飲んだのはこられが初めてだった。
改めて、お互い大人になったな、と、無言のまま時の流れを噛みしめる。
「…やっぱりカッコいいな、幹久は」
二人で公演のビデオを見ていると、眞人が、急にぽつりと言い出した。
私はふっと笑い、空になった眞人の杯に酒を注ぐ。
「今更…嬉しくもないな」
「やっぱり…幹久は才能があるよ。幹久に任せて、本当に良かった…」
そう言うなり、眞人の目からぽろりと涙が零れ落ちた。
酒で涙腺が緩んだのか、溢れた涙にぎょっとして、眞人は赤い頰を拭う。
気付けば、その手を捕まえ、唇に軽くキスをしていた。
目が悪くなったといい、かけはじめた眼鏡がずるりと落ちる。
呆然とした眞人に、私はふふっと笑った。
「酔ってるのか?眞人」
「こ…こっちの台詞だ!」
眞人に突き飛ばされ、私は声をあげて笑った。
昔なら、突き飛ばされようがもがこうが、決して眞人を離さなかっただろう。
私につられ、眞人も笑った。
こんな関係がおかしくて、深夜の家で二人、ひとしきり笑った。
「幸せに…幸せになったんだな、幹久」
笑いすぎて溢れた涙を拭いながら、眞人が言った。
私は残った酒を飲み干し、頷く。
「あぁ…眞人も」
「うん、幸せだ。…愛してるよ、幹久」
「私もだ」
空になった杯に、再び酒が満たされた。
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