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父子
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「…幹彦、手を離しなさい」
「嫌だ。僕が連れて行く」
「聞き分けなさい、幹彦。勉強を続けるんだ」
「嫌だ」
小さな手で、ぎりぎりと大人の手首を締め付け、怒りにも似た視線を親に向ける。
それは、お気に入りのおもちゃを取り上げられ、駄々をこねる様なものではない。
まるで自分を見ているようだった。幼くも、こんなに固執する姿に悪寒すら覚え、私は小さな手を振り払う。
幹彦は追ってくることはなかったが、刺さるような視線をずっと背中に感じていた。
甥を抱いたまま、廊下に出る。すると、腕の中で結威がもぞもぞと動いた。
「ん…ん…。パパ…?み…ひこ…?」
「…叔父さんだ。あんなところで寝ていては、風邪をひくだろう」
「ん…ごめん…なさ…」
少しだけ申し訳なさそうに眉を下げ、私の胸に縋り、すぅすぅと寝息を立てる。
成長し、眞人に似てきた顔立ちを、そっと指先で撫でた。
柔らかな子供の頰に触れ、先ほど、口付けをされた小さな唇の手前で止まる。
幹彦が、まさか…ーー。
息子の頰を張り、こんなことは二度とするなと言うのは簡単だ。
しかし、幹彦は驚くほど私に似ている。手を上げたところで、ますますむきになるに違いない。
だからと言って、見過ごしていていいことでもない。
何より、報われない相手を想う苦しさは、私自身が嫌と言うほど知っていた。
子供たちには幸せになって欲しい。
しかし、それをどう息子たちに伝えればわかってもらえるのか、いくら考えても答えは出なかった。
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