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散歩
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公演が終わったその夜、出演者との打ち上げもそこそこに、私は眞人に連絡を取った。
幸い、眞人の出張先はそう離れた距離ではなかった。タクシーを走らせ、待ち合わせに指定した公園へ向かう。
ライトアップされた噴水の前で、車椅子に座り、一人佇む眞人の姿があった。
「幹久!」
公園に入ってくる私の姿を見留め、眞人は無邪気に手を振った。
私はサングラスを外し、昔から変わらない兄を照れくさく思いながら軽く手を挙げる。
「呼び出して悪かったな」
「いや、大丈夫だよ。君こそ疲れているんじゃないのか?知らせてくれれば、観に行ったのに」
「いや、それは…何だか恥ずかしいな」
当たり障りのない会話をしながら、私はきっかけを探っていた。
久々の再会を喜ぶ眞人は、私の話が何なのか、勘ぐった様子はない。
素直で、人懐こくて、真っ直ぐで。
目尻に皺は増えたものの、全く変わらない兄を見て、懐かしい気持ちが蘇る。
「少し、散歩…しないか。押すよ」
「あぁ、大丈夫。並んで歩けるよ」
「いや、押させてくれ」
私はそう言って、眞人の車椅子を押して歩き始めた。
日の落ちた夏の公園には、夕涼みや、花火を楽しむ恋人たちの姿がちらほらと見えた。
ベンチの上で人目を気にせず絡み合う男女の前を通り過ぎ、夏のイルミネーションを楽しむ静かなエリアに入っていく。
しばらく無言で風の音を聞いていたが、眞人の後ろ頭を眺めながら、私はそっと口を開いた。
「…幹彦は、結威君が好きなようだ」
独り言のような呟きに、眞人がぴくりと反応した。
「ははっ、そうか。結威は可愛いからなぁ」
振り向いて、冗談めかして眞人は言う。
「眞人…」
「なんだ、そんな話か。仲がいいのはいいことだ」
「眞人…幹彦は、私と同じなんだ」
足を止め、私は強くハンドルを握り締めた。
眞人にとって、こんなに残酷な話があるだろうか。
実の弟に乱暴され、やっと幸せを掴んだかと思えば、その息子が自分の大事な息子を…
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