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「お待たせいたしました」
いつの間にか窓越しに通りをぼぉっと見ていた僕は、よく通る心地よい声に顔を向けた。
そこには、待ち焦がれた彼の笑顔が、あった。
「あれ、何で……?」
ポロリと言葉が口から漏れた。
「あ~、すみません…」
思わず呟いてしまった言葉に、ミヤくんが苦笑混じりに返す。
ここのカフェは、オーダーを取ったスタッフがサーブまでしてくれる。
だから、彼は僕の疑問の意味を取り違えたのだろう。
が、僕にとっては嬉しい誤算なわけで。
「あ、いえ、この時間も、いるんですね…」
微笑んで答えると、ミヤくんも笑顔を作ってくれた。
「普段は早い時間のシフトなんですが、今日は午後の人手が足りなくて。
お客様は、この時間にいらっしゃるのは、珍しいですね」
その笑顔は、なんだか少し、ぎこちない作り笑いに見えた。
もしかして、朝イチに会えなかったから、わざわざもう一度来たと思われただろうか?
だとしたら、僕は気持ち悪いストーカーに思われた?
「あ、今日は休日出勤で、朝は来られなくて…」
慌てて言い訳をすると、ミヤくんの笑顔が少し和らいだ。
「だから今日はスーツなんですね。
社会人って、大変ですね」
そういえば、忘れていた。
会社から急いで来たためスーツ姿だし、IDのネームもぶら下げたままで。
なんとなく恥ずかしくて、IDだけでも鞄にしまう。
ふと、ミヤくんの台詞を反芻する。
“社会人って、大変ですね”ってことは、やはり彼は社会人ではないらしい。
ついつい聞き返してしまった。
「ミヤくんは、学生バイト?」
僕の言葉に、彼が目を丸くする。
しまった。
せっかくストーカーの誤解を――いや、あながち誤解とも言い切れないのだが――解いたのに。
個人情報を聞き出そうとするなんて…。
何か言わなければと思うが、何も言えずにいると、ミヤくんが先に口を開いた。
「ええ、この近くの大学の二年です」
そう答えてくれた笑顔に、嫌悪感は見えなくて。
ほっと安心しながら、会釈して彼を見送った。
さっきまでは感じなかった食欲が、湧いてくる。
自身の現金さに内心苦笑しつつ、輝きを取り戻したパンケーキに舌鼓を打った。
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