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14 sideミヤ
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「おーい、ミヤ~!」
昼メシを半分も食べ終わらないうちに、先に休憩を終えていたバイト仲間がスタッフルームに顔を出す。
『こんな時間に混んできたのか?』
やっと休憩に入れたのに、ヘルプに呼ばれたのかと内心溜め息を吐くと、そいつは思ってもみなかった言葉を口にした。
「チマくん、来たぞ!」
「は?」
一瞬意味がわからずに呆けるが、次の瞬間の俺の行動は速かった。
ニヤニヤとからかうようなバイト仲間の表情も気にせず、食いかけのパンを置いてスマホをロッカーにしまう。
「ミ~ヤ~?
お~い、おれの存在シカトかよ~?」
バイト仲間のそんなセリフすらシカトして、鏡に向かう。
緩めていた首元を正して、手早くしかし入念に髪型までチェックを入れる。
フロアに戻ると、スーツ姿のチマくんがぼんやりと外を眺めていた。
「お待たせいたしました」
出来上がった品を担当から奪ってチマくんに声をかけた。
ゆっくりと振り向くこの人に、思わず口元も緩む。
営業スマイルも忘れてだらしなく緩んだ頬を、慌てて意識的に引き締める。
危ねぇ、こんな顔してたら、ただの変態だ。
「あれ、何で……?」
チマくんの口から、ポツリと疑問が零れる。
やべぇ、通い慣れてるこの人なら、注文を取ったヤツがサーブすんのも、知ってるか。
てか、俺、完璧にキモいヤツじゃん…。
「あ~、すみません…」
苦笑混じりに返すと、チマくんは笑顔を取り繕ってくれた。
「あ、いえ、この時間も、いるんですね…」
「普段は早い時間のシフトなんですが、今日は午後の人手が足りなくて。
お客様は、この時間にいらっしゃるのは、珍しいですね」
もしかして、俺が気持ち悪くてわざわざこの時間に来たとか…?
いや、でも、流石にそれはねぇだろ……。
そんな不安が、顔に出ていたのだろうか。
チマくんが、慌てた様子で説明してくれる。
「あ、今日は休日出勤で、朝は来られなくて…」
もしかしたら、俺に気を使っただけかもしれないけど、それでもなんか嬉しくて、自然と笑みが漏れた。
「だから今日はスーツなんですね。
社会人って、大変ですね」
なんて言いながら、しっかりとIDで名前を確認する。
風間将吾さん、か。
ご丁寧に SHOGO KAZAMA と書かれているから、読み方も間違いない。
なんか、ちょっと意外な名前だ。
この人なら、“優”とか“春”とか、そんな字が似合いそうなのに。
“悠”とか“遥”なんかも似合うかな。
少なくとも“将”も“吾”もイメージじゃない。
そんなことを考えながら、ふと気付く。
あれ………? この会社……………。
見慣れた社名から、思わず視線を反らす。
いや、落ち着け。
見間違いとか、似てる会社名とか…。
しかし、もう一度見直しても、やはりその社名は良く見知ったものだ。
なんでよりにもよって、この会社なのか。
会社なんて五万とあると言うのに。
いや、でかい会社だし、知り合いとは限らない。
このカフェに来るってことは、位置的に本社勤務の可能性は五分五分ってとこか。
部署は…総務部?
あのくらいの規模の会社って、よその部署とどの程度関わるんだろうか。
この人がアイツらの知り合いだったら…。
嫌~な想像が頭をぐるぐる回る。
「ミヤくんは、学生バイト?」
ふと、そんな言葉に現実に引き戻される。
社交辞令だとしても、俺について質問してくれたのが嬉しい。
例えネームに書いてある文字を読んだだけでも、名前を呼ばれたのが嬉しい。
「ええ、この近くの大学の二年です」
笑って答えながら、やっぱり自分の意外と乙女な思考回路に内心苦笑してしまった。
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