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15 sideミヤ
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それから暫く、将吾さんは店には来てくれなかった。
やっぱり俺がキモかったのかな、とか、ちょっとだけ不安になる。
単純に仕事が忙しいだけとかならいいけど。
そもそも、気に入りの店が変わるなんてよくある話か。
始めの頃はなんか気になってたけど、一ヶ月も経つ頃には、失礼だけど、将吾さんのことなんてすっかり忘れて、以前の日常を過ごしていた。
大学に行って、バイトに行って。
たまに女の子に絡まれたり、アイツらの面倒ごとに巻き込まれたり。
思いがけない再開を果たしたのは、ちょうどその頃だった。
いつものように、ウチの猫の餌なんかを買いにペットショップへ向かってた。
ホントはネットの方が安いし便利だけど、やっぱたまには店頭でイヌネコを見て癒されねぇと。
しかし、何の因果か、前に飲みの席で知り合った派手な女と出くわしてしまった。
「あれぇ? ミヤくんだよねぇ!
久しぶりぃ~! メール送ったんだけど、届かなかったぁ?
アドレス間違えたかなぁ?」
やたらと高いテンションで絡み付かれ、俺のテンションは急降下する。
わざと無視したんだよと説明するのも面倒で放置すると、それを容認と捉えたらしい女が、ペットショップの中まで付いてきた。
店の中で言い争うわけにもいかず、仕方なしに我関せずを貫く。
「や~だ~、この子可愛くない?」
女の猫なで声に、俺のイライラが募る。
『お前が可愛いと思ってんのは、動物じゃなくて、“動物を可愛いっていうアタシ可愛い~”って事だろ…?』
無視を決め込むが、女は中々しつこかった。
「ねぇ、この子ブサイクで可愛いんだけど~。
ミヤ~、聞いてる~?」
いつの間にか馴れ馴れしく“ミヤ”なんて呼ばれ、辟易する。
「うるせぇ、お前ちょっと黙れよ」
流石に我慢できずに悪態を吐くが、コイツは“ちょっと口の悪い俺”が標準だと思っているようで、めげない。
さっさと用事を済ませて店を出ようかと踵を返すと、小動物コーナーに見覚えのある背中が見えた。
やべぇ、俺、この女に苛つき過ぎて、とうとう将吾さんの幻覚に癒しを求め始めた?
…って、んな訳ねぇか。
人違いでは無いことを確かめるべく、自然を装って近付く。
やっぱ、将吾さんだ。
「あれ? こんにちは、お久しぶりです」
偶然を装って、――いや、この店で会ったのはホント偶然だけど――声をかける。
しかし、将吾さんは無言のまま訝しげな視線を送ってきて。
「あ、すみません。
急に言われても分かんないですよね」
気付いてはもらえなかったことをちょっと残念に思いつつ謝ると、将吾さんが慌てたように口を開いた。
「いえ、すみません。
カフェのバイトの、ミヤくんですよね。
ちょっとびっくりしただけで、ちゃんとわかりますよ」
名前を呼んで貰えて、気持ちがほっこりと暖まる。
「覚えててくれました?
ありがとうございます。
最近いらっしゃらないんで、気になってたんですよ」
「あー、最近仕事が立て込んでて。
また今度、お伺いしますね」
覚えててくれたことにはホッとしつつも、取り繕うような笑顔に胸がズキンと痛んだ。
「またいらして下さいね」
軽く会釈して別れると、先程からついてくる女が「だれ~?」と問い掛けながら、腕に絡み付いてくる。
将吾さんに、こんな女が趣味だと思われたくなくて、腕を振り払い足早に店を後にした。
イヤなヤツに会って最悪の気分だったのに、将吾さんに会えてこんだけテンション上がるって、俺って意外と単純だったみたいだ。
普段は“飄々としてる”とか“掴み所がない”なんて評される俺だが、自分すら知らなかった自分ってのも、案外悪くないかもしれない。
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