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彼の姿が見えなくなると、ふと今の言葉がよみがえってきた。
「将吾さん」
確かに、彼はそう言った。
そういえば、最後にカフェに行ったときは、スーツにIDを下げたままの格好で。
もしも名前を知られるとしたらその時だけど、何でわざわざ名前を見たのだろう。
しかも、苗字ではなくて、名前を呼ばれるなんて。
夢の中で呼ばれた「風間さん」の何倍も甘い声で。
「将吾さん」って。
あまりの嬉しさに浮き立つ心を必死に鎮めて、部屋に入る。
だめだ、勘違いするな。
さっき決意したばかりじゃないか。
ミヤくんは優しいだけ。
これは、僕の気持ちを知らないからこそ、向けられる優しさ。
明日には終わる優しさなんだ。
何度も言い聞かせながら、シャワーを浴びてベッドに潜り込んだ。
翌朝、僕は一睡も出来ないままにベッドから這い出た。
二日酔いではないと思うが、泣きすぎたせいだろうか、頭はズキズキと痛むし、目は腫れぼったい。
こんな顔で最後に会うなんて嫌だけれど、「約束ですよ」と念を押されたし。
そもそも、僕がどんな顔だろうと、ミヤくんは興味ないだろうし。
浮かない気分でカフェへ行くと、相変わらずそこは華やかな活気に満ちていて。
どんよりした僕なんかが入ってもいいものか、躊躇ってしまう。
しかし、やっぱりミヤくんは僕に気付いてくれて。
「お待ちしてました。
中へどうぞ」
「お待たせしました」ではなく、「お待ちしてました」。
そんな風に案内されて、複雑な気持ちで席についた。
いつものパンケーキとカフェラテを頼み、彼にそっと昨夜のタクシー代を渡す。
封筒を渡す手が震えるのは、中に入っているのがお金だけではないから。
「わざわざ、すみません。
来てくださっただけでいいのに」
苦笑しながらも受け取ってくれたのは、多分店で騒がれたくないからだろう。
会計を済ませて店を出ると、僕はメモの場所へ向かう。
ミヤくんへ渡した封筒に入った、メモの場所へ。
振り返ってみると、あっけなかったなぁ…。
それでも、ミヤくんを思ってるときは、幸せだった。
たとえ、君がもう僕に微笑んでくれなくなるとしても。
この気持ちを告げるのが、僕のエゴだとしても。
それでも僕は、君に恋をできたことを、後悔したくはないんだ。
泣きたくなる気持ちを堪え、ぎゅっと拳を握り締め、背筋を正して胸を張って歩いた。
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