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4 side本宮柳
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将吾さんと会った後に家庭教師のバイトを終えて帰宅した俺は、運悪く一人で飲んだくれていたオヤジに捕まってしまった。
転勤でまた本社に戻ってきてから、毎晩のように大量の酒を飲んでるが、その日は一段と面倒だった。
異常な程に酒に強く、酔った姿など見たことも無い父だったが、よっぽど久弥との事がこたえていたのだろう。
珍しく胡乱な瞳でこちらを見てきた。
強引に酒に付き合わされ、愚痴を聞かされる。
“久弥に好きな男が出来たらしい”そう言って落胆する父に喉元まで言葉が出かかる。
“相手はお前だろう”と。
だが、こう言うことはやはり本人の口から言わせるべきではないのか?
そう思い、今度は久弥のフォローに入る。
しかし、こちらもまた頑なで。
まあ、詳しくは知らないが、酷い裏切られ方をしたらしいから、久弥の方は仕方ないのかも知れないが。
そんなこんなで一週間が経ち、疲れきって帰宅した金曜の夜。
ふと、将吾さんは何をしてるんだろうと気になって。
“嫌いじゃない”、“また会いたい”とは伝えたものの、あのネガティブな感じから察するに、明日は気まずくて店に来ない可能性もある。
もしかしたら、こちらから連絡を入れないと自分からはメールも出来ないとか、あの人なら十分あり得る。
相変わらず次々と酒瓶を空にしていく父を尻目に、さっさと自室へ退散する。
ごろんとベッドに寝転び、先週聞き出した将吾さんのアドレスをタップして。
《明日はカフェに来てくれますか?》
簡潔なメールを送信しかけてふと思い直し、作成画面へと戻る。
―――――――――――――――
to:風間将吾
title:無題
本文:明日はカフェに来てくれますか?
もし午後から時間あったら、遅めの昼ごはんに付き合ってくれません?
―――――――――――――――
もう一文付け足して、送信をタップする。
これを見たら、将吾さんはどんな反応をしてくれるだろう。
慌ててわたわたとケータイを落っことす場面を想像し、自然と笑みが漏れる。
こんなにメールの返信を心待ちにしたことって、あっただろうか?
もう、読んだかな。
まだ、残業とかお風呂とかで、気付いてないかな。
こういうとき、メールはちょっと不便だけど、ちょっとドキドキする。
LINEで既読なのに返事がなければ、結構へこむけど。
メールだと読んだかどうかが分からないぶん、いろいろと想像が掻き立てられて。
もしかしたら、まだ読んでないかも。
もしかしたら、もう読んでて、返信に悩んでるのかも。
そんな乙女思考に陥っていると、手元でスマホが着信を告げた。
―――――――――――――――
from:風間将吾
title:Re:
本文:先週はありがとう。
明日も行きます。
午後から、楽しみにしてるね。
―――――――――――――――
将吾さんから返信が来たのは、送信から15分も経ってからの事だった。
今気付いて、急いで送ってくれたのか。
それとも、実はすぐに気付いていて、何て送ろうか長々と悩んでくれてたのか。
将吾さんのことだから、後者っぽいな。
そう思うと、また頬がだらしなく緩む。
午後の事を返信しようとして、ふと思いとどまる。
なんだか無性に、将吾さんの声が聞きたかった。
さっそく番号を呼び出して通話をタップすると、無機質な機械音はすぐに途切れて、慌てた様子の将吾さんの声が耳に届いた。
『は、はい、もしもし』
「将吾さん? 本宮です。
今大丈夫ですか?」
怯えさせないように、ゆっくりと話したつもりだったが、将吾さんの緊張は生半可じゃないらしい。
『あ、うん、だ、大丈夫』
電話越しでも真っ赤になって俯いてるのがわかるくらいに、どもっている。
その様子を想像してしまい、ふふっと笑みが漏れる。
「焦らなくていいですよ」
『ぅ゙…、ごめん…』
俺の言葉にいちいちかわいい反応を示すから、ついまた笑ってしまった。
さて、あんまり虐めすぎても可哀想だし。
せっかくだから、いろんな話は顔を見てしたいし。
そう思って本題を切り出す。
「さっきのメールの件なんですけど。
いつもの時間に来てもらうと待たせちゃうから、明日はゆっくり来てくれません?
2時までシフト入ってるから、1時半過ぎくらいに。
そのくらいの時間だと、ピークも過ぎてるんで。
軽くお茶でも飲んでてください。
で、そのあとご飯食べに行きましょう?」
俺が楽しみにしてるのが、電話越しに伝わったのだろうか。
『うん、わかった。
1時半過ぎね』
そう答えた将吾さんの声は、柔らかく微笑んでいた。
「何食べたいか、考えておいてくださいね。
じゃあ、おやすみなさい、将吾さん」
『うん、おやすみ。
…本宮…くん』
プツリと通話を終える。
遠慮がちに呼ばれた“本宮くん”。
一見“ミヤくん”よりも他人行儀に感じるが、店員と客の関係よりもプライベートの知り合いっぽくて、何だか耳がくすぐったい。
その声を反芻してまた笑みを漏らし、照れくささを誤魔化すように、シャワーに向かった。
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