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翌朝、割りと早く目覚めた僕は、念入りに顔を洗って髪を整えると、気合いを入れてクローゼットと向き合った。
普段はファッションに全くの無頓着だから、こういう時に何を着ていけばいいのか、分からない。
いっそ、午前中に急いで買ってくるか…?
いや、でも、ご飯食べに行くだけでそんなに気合い入れてたら、流石にヒかれちゃうかな。
散々悩んだ挙げ句、結局当たり障り無い綿パンとシャツに落ち着く。
まあ、カッコ良くはないけど、そこまでダサくはない…と、思う。
こうして改めて鏡を見ると、僕ってホントに平凡だ。
不細工だと卑屈になる程ではないけど、カッコよくもないし。
体格も平均。
成績は…悪い方じゃなかったが、特別良いわけでもない。
性格は、自分でも呆れるほどにうじうじと後ろ向きだ。
幸いなことに勤め先だけは良いところで。
唯一の救いといったらそれくらい。
対して、本宮くんはかなりカッコいい。
背も高いし、手足も長くてスタイルがいい。
偶然会ったときに見た私服も、すっごく似合ってた。
カフェでもいつも女の子に声かけられてるから、決して惚れた欲目だけではないはず。
プライベートで話したことなんて、ほんの少しだけだけど、とっても優しく笑ってくれて。
唯一、ペットショップで会った女の子の趣味はちょっと意外だったけど、今の若い子ってあんなものなのかな。
それにしても、本宮くんはなんで、こんな僕に構ってくれるんだろう。
年下なら可愛いげもあったかもしれないけど、たぶん僕の方が5~6才くらい上だと思う。
大学二年って言ってたから。
髪をちょっと弄ってみても、目をぱっちり開いてみても、本宮くんに声をかけてるような可愛い誰かになんてなれはしない。
ふっと鏡の中の僕と見つめ会う。
そこには、せっかく本宮くんに会いに行くのに、なんだかとても暗い僕が居た。
約束の時間までが、とてつもなく長く感じて。
うろうろと狭い部屋の中を無駄に歩き回る。
こんなんじゃダメだよね。
パチンと両頬を叩き、気合いを入れる。
また鏡を見て、口角を上げてニィッと無理矢理笑顔を作る。
一人で部屋にいるとやっぱり落ち着かないから、思いきって外に出た。
本屋やレンタルショップを冷やかして、普段はあんまり行かないようなブランド店を覗く。
店員から何点か勧められたけど、結局不相応な気がして何も買えなかった。
うろうろと時間を潰していたら、いつの間にか本宮くんのバイト先近くまで来てしまっていて。
時計を見ると、まだ13時ちょっと。
約束までには30分近くある。
ぼんやりと車道の向こうのカフェに目を向けた。
混雑のピークは過ぎたようで外で待つのは最後の一組だけのようだけれど、店内はまだまだ賑わっている。
ちょうどそこへ、本宮くんが顔を出した。
外の客を、店内の待ち合いスペースに案内するようだ。
声をかけられたのは、女子大生だろうか?
本宮くんと同年代の可愛らしい女の子が、彼をうっとりと見上げていた。
本宮くんは、仕事なんだから当たり前だけど、優しい笑顔で対応していて。
僕以外に向けられる笑顔に、胸がチクリと痛む。
そんな資格なんて無いのに。
ホント、僕って嫌なヤツだ。
身勝手な思いだけど、他の人に向けられる笑顔が嫌で。
見ていたくなくて。
取り敢えずもう少し時間を潰そうと、本宮くんに背を向けようとした時だった。
本宮くんがこちらを向いて、ぱあっと満面の笑みになる。
きっと本当は普通に笑ってくれただけで、僕の願望がそう見せてるだけなんだろうけど。
それでも、大型犬がしっぽを振るような可愛い反応に、それまでやさぐれてた心が、ほんわりと温まった。
なんか、スゴくゲンキンだな…。
そう思うと、またしてもネガティブ思考に陥る。
が、次の瞬間、本宮くんは、バイト中だから控え目に、けれども僕にしっかり分かるように手を振ってくれて。
それが嬉しくて、微笑み返して小さく手を上げて応える。
“一喜一憂”って、まさにこの事だ。
そんなこと思ってたら、本宮くんに手招きされて。
その時の笑顔が、やっぱりとっても可愛くて。
歩道橋を渡るとき、浮き足だって逸る心を抑えて、冷静を装うのが大変だった。
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