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third season 1
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あの夢のような告白から、三ヶ月ほどが過ぎた。
日中はまだ残暑が厳しいが、夜はだいぶ涼しい季節になった。
本宮くんとは、相変わらず順調に交際を続けている。
表面上は。
大きな不満があるわけではない。
彼はいつだって優しいし、僕の事を本当に大切にしてくれるし。
後ろ向きな僕が不安にならないよう、たまには想いを言葉で伝えることも忘れない。
けれども、やはりどうしても不安が消えないのは、僕たちが男同士で。
男女の恋愛と違い、なかなか友人時代の関係から、先に進めずにいるためだろう。
いや、全く先に進めなかった訳ではない。
付き合って一ヶ月ほど経った頃、一度、そんな雰囲気になったことがある。
本宮くんは、僕と付き合い始めてすぐに、お家の都合―お父さんが恋人と暮らすことになったらしい―で独り暮らしを始めていた。
外で会うだけでなくて、少しずつ互いのアパートにも遊びに行ったりしてて。
その日も、仕事帰りに本宮くんのアパートに寄っていた。
本宮くんは普段、週末の夕方からは家教のバイトが入ってるから、ゆっくり会うのは大抵日曜日の日中なんだけど、その日はたまたま生徒さんの都合で金曜なのにバイトがなくて。
軽く啄むようなキスは何度となくしていたけれど、何となくその日は、本宮くんがいつもよりも熱っぽい目で僕を見るから、何かあるかなって感じてた。
僕も繁忙期でもないから定時で退社してて。
時間は十分にあったし。
いつものように、DVDを見たりくだらない話で盛り上がったり。
本宮くんが慣れた手付きでご飯を作ってくれたりして。
あっという間に、帰るとしたら電車に乗らなければならないくらいの時間になっていた。
「えっと、じゃあ、そろそろ…」
あからさまに居座るのも気が引けて、暇を告げようと立ち上がる。
しかし、そのあとに続くはずだった“帰るね”の言葉は発せられることはなかった。
本宮くんからの口付けに、飲み込まれたから。
「んっ……」
今までになく、長い口付け。
恋愛経験の少ない僕は、濃厚なそれに付いていけず、酸欠気味になってしまう。
「将吾さん、鼻で息して?」
焦る僕を支えながら、余裕の本宮くんが囁く。
唇を離すことなく、啄みながら。
甘く、甘く、蕩けてしまいそうな声で。
必死で彼にすがり付くけれど、本宮くんの舌はどこまでも的確に僕を追い詰める。
学生の部屋なんて普通こんなものだろうけれど、本宮くんの部屋は、ソファから数歩ですぐにベッドがあって。
気が付けば僕は、彼の香りのするベッドに横たわっていた。
ベッドに仰向けになった僕に覆い被さるように、本宮くんが近付く。
つけっぱなしのはずのTVの音が遠ざかり、心臓がうるさすぎるくらいに早鐘を打つ。
本宮くんの精悍な顔が目前に迫り、あっと思ったときには再び唇が塞がれていた。
本宮くんの大きな手が、僕の髪を掻き回すように撫でる。
本宮くんも、少しは余裕をなくしてくれてるのかと思うと、何だか嬉しくて。
でも、その手が少しずつ下へさがり、僕の平らな胸へと辿り着いた時、小さな恐怖心が芽生えた。
本宮くんに恋して、恋人という関係になって、僕だって人並みに関心はあるから、いろいろと調べもした。
当然、セックスをするとしたら、僕が下なんだろうと思ってた。
心の準備は、出来たつもりでいた。
けれど、実際に触れられると、まだまだ気持ちは付いていけていなくて。
さっきまでは確かに、本宮くんからのキスに悦びを感じていたのに、今は戸惑いや恐怖、そんな負の感情だけが僕に襲いかかる。
硬直する僕の身体に気付いたのだろう。
「将吾さん、そんなに緊張しないで?」
本宮くんが、囁く。
ゆっくりと、スラックスの上から身体の中心をなぞられ、怯えながら本宮くんを見上げると、そこには獣のような眼をした本宮くんがいた。
「ぃゃっ!」
突如、不安と恐怖が膨れ上がり、爆発した。
大好きなはずの本宮くんが、知らない人のように見えて、ただひたすら怖くて。
本宮くんの手を払ってしまった。
怯えながら、震える手で自分の身体を抱き締める。
自分でも、どうしていいか分からなかった。
「ごめん…」
絞り出すように小さく吐き出された言葉に、ハッとして顔をあげる。
本宮くんは、苦し気に顔を歪めていて。
「あ、ごめ…、違っ……」
慌てて弁解しようとするが、上手く言葉にならない。
好きなのに、怖くて。
触れてくれて嬉しかったのに、どうしていいか分からなくて。
頭の中がぐちゃぐちゃで。
「将吾さん、ビックリさせてごめんね。
なんもしないから、ギュッてしながら寝ましょ」
いつもの、柔らかくて優しい笑顔が、そこにはあった。
怯えた僕に、気を遣ってくれたのだろう。
不自然なほどの明るい声で、何事もなかったかのようにチュッと軽いキスをされて。
さっきまでの飢えたオスのような瞳は、なりを潜めていた。
“この話はもう終わり”とでも言うように、「お休みなさい」と言われる。
弁解できるような雰囲気はもうなくなってて。
その日は、本当にそれ以上何もせずに、朝まで優しく抱き締められて眠った。
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