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あれ以来、本宮くんは全くそんな雰囲気を出さなくなった。
互いのアパートに行っても、決して性的なモノを感じさせはしないし、キスも軽く触れるだけ。
いや、それ以前に外で会う割合が増え、キスの回数自体が減っていた。
僕が彼を拒絶したあの時、一瞬だけかいま見えた、眉間に深くシワの刻まれた表情。
あれは本当に、僕からの拒絶に傷付いただけなのだろうか。
もしかしたら、僕との関係自体を後悔しているのかもしれない。
たとえあの瞬間はそうでなくても、後から冷静になって、後悔したのかも。
だって、セックスも出来ないなんて、面倒だよね。
それともやっぱり、実際に男の身体に触れて、幻滅した?
男らしいとは決して言えないけれど、どう考えたって柔らかな女性の身体とは違う。
胸の膨らみはないし、余計なモノは付いてるし。
思っていたのと違ったって、気持ち悪いって、嫌悪感を抱いた?
誰にも言えない関係。
僕には、一人だけだけど、この関係を話せる友人がいる。
流石に、セックスの悩みなんて相談はできないけれど。
でも、本宮くんは、このことを誰にも言えずに悩んでいるのかも。
僕の後ろめたい想いが、伝わってしまったのだろうか。
数日後、休憩時間に携帯を確認すると、本宮くんから“今日の約束をキャンセルしてほしい”とのメールがあった。
本宮くんは基本的に約束を反故したりしないし、どうしても都合が悪くなった場合はきちんと理由を添えてくれる。
けど、この時は、“ちょっと都合が悪くなって”としか書かれていなくて。
“どうして?”なんて聞く勇気もなくて、“分かった、また今度ね”とだけ返信した。
そのメールに対する更なる返信は、無かった。
今までの彼なら、次の約束を提案してくれそうなのに。
どんどん、不安ばかりが膨らんでいく。
やっぱり、僕と二人でなんて、会いたくないのだろうか。
もう、潮時なのかも。
いつまでも本宮くんの好意に甘えているのも、申し訳ない。
本宮くんが優しくしてくれればくれるほど、男同士という後ろめたさが膨れ上がる。
だって、本宮くんは、女性をちゃんと愛せるのだから。
僕みたいな欠陥人間では、ないのだから。
気を遣わせてるなぁと、感じてしまう。
彼は優しい人だから誰にでもそうなのかもしれないけれど、一度そう思ってしまうと全てが悪い方向へとしか考えられなくなってしまう。
こんな自分、イヤだと思うのに、どうしても前向きになんてなれない。
自分でさえイヤなのだから、こんな僕を、あんなに素敵な人が本当に好きになってくれるはずがない。
両想いになれば、幸せになれると思ってた。
けれども、現実は違った。
好きと言われると、今度は嫌われるのが怖くて。
優しくされると、ふとした瞬間に不安になって。
幸せを感じると、別れの瞬間に怯える。
こういうことは、長引かせない方がいいよね。
今まで、ずるずる先伸ばしにしてきたけれど、もう、終わりにしよう。
本宮くんの大切な時間を、いつまでも僕のために無駄遣いさせちゃいけない。
でも、やっぱり、返信のないかもしれないメールは怖くて出来なくて。
電話も、出てくれないかもとか、断られるかもなんて思うと、怖くて。
それならいっそのこと、会いに行ってしまおう。
そう思って、初めて連絡もなしに彼のアパートへと向かうことにした。
普段は後ろ向きな僕だけれど、昔から変なところで行動力があると言われていた。
この時も、吹っ切ってしまえば、もう突き進むしかなくて。
仕事終わりにアパートに寄って身仕度だけ済ませると、迷いもなく本宮くんのアパートへと向かった。
都合が悪くなったと言っていたから、どうせすぐに行っても会えないだろうし。
まあ、身仕度と言っても、帰りに思う存分飲んだくれようと思ってスーツを脱いでラフな格好をして、彼の部屋に置いてあるものを持ってくるために大きめの鞄を持ったくらいだが。
念のため、アパート前で長時間待つことを考えて少し厚手の上着も忘れない。
自分でも驚くほどに冷静な行動に、自嘲してしまう。
あれだけのネガティブは、どこにいったんだか。
いや、ネガティブだからこその、この行動か。
電車に揺られること十数分。
少し歩けば目指す場所はもうすぐ目の前に見えてくる。
流石にここまで来ると、少し緊張してきた。
エレベーターを見ると、ちょうど登ったところで。
立ち止まりたくない僕は、ゆっくりと、しかし確実に、階段を踏みしめるように登った。
普段は運動なんてしないから、ちょっと階段を使うだけで息が切れる。
それが逆に、良かったのかも。
余計なことは何も考えずに済んだから。
本宮くんのいる四階に着いて、それぞれのドアの見える通路に出ると、エレベーターからスーツ姿の男性が降りるところが見えた。
何となく他の住人とは顔を会わせたくはなくて、少し時間差を置こうと立ち止まる。
するとその男は、本宮くんの部屋へ向かった。
しかもあろうことか、鞄から鍵を取り出し、インターホンも押さずに扉を開けた。
何で?
思考が混濁する。
本宮くんは、今日は都合が悪くなったと言っていた。
それは、あの男の人と、会うため?
勿論本宮くんにだっていろいろと友人はいるだろうから、用事があるのは分かるけれど。
僕との先約をキャンセルしてまで、その人に会いたかったの?
これが、特に約束もない日なら、ちょっと不安になる程度はあるかもしれないが、ここまでの不安に押し潰されることは無かっただろう。
でも、ドタキャンしてまで他の人と会っていたことが、メールの返信も無かったことが、どうしても引っ掛かって。
しかも、合鍵まで持っているし。
僕に優しくしてくれてたのは、何?
あのキスは? あの笑顔は? あの告白は?
途端、大粒の涙がボタボタと流れ落ちた。
あの人は、浮気相手?
いや、あっちを優先するのだから、僕の方が浮気相手か。
何で? 何で? 何で?
何も、分からなくなる。
分かったのは――僕の位置からは斜め後ろしか見えなかったけれど――スラリとしたスタイルのよい男性が、本宮くんの部屋にいるという事実だけ。
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