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部屋に招き入れられて、ソファに座る。
預かっていた合鍵を差し出すと、困ったような顔で受け取られて。
胸がチクリと傷んだ。
心のどこかで、“将吾さんにあげます”なんて言葉を、無意識に期待していたのかもしれない。
「何か飲みます?」と聞かれたが、まだ風邪で辛そうな本宮くんにそんなことさせられないから、コンビニの袋から取り出したスポドリを本宮くんに渡して、自分にもカフェオレを取り出す。
「ありがとうございます」
ふわりと笑って受け取ってくれた彼は、けれど、どこかぎこちなかった。
熱が上がってきたのだろうか。
汗ばんでいて辛そうな本宮くんに、無理させてはいけないだろう。
そう思い、口を開く。
「昨日は、ごめんね、突然押し掛けて…」
「いえ、びっくりしたけど、会えて嬉しかったです」
「それなら、よかった…」
会話が、途切れる。
沈黙に堪えきれずに俯くと、本宮くんがふぅーっと息を吐く気配がした。
無意識に、ビクリと震える。
「将吾さん、呼び出しちゃって、すみません。
ちゃんと、話がしたくて。
昨日泣かせちゃったのは、俺が原因?
勘違いって、何?」
わざとらしいほどにゆっくり、一言一言丁寧に、問い掛けられる。
僕も、ちゃんと彼と、向き合わなければ。
「ううん、本宮くんのせいじゃないよ。
僕が勝手に勘違いしただけ」
「ちゃんと聞くから、教えてください」
僕も、ひとつ深く息を吐いて、改めて本宮くんに向き直った。
「うまく伝えられるか、分からないけど…」
そう前置きすると、本宮くんは穏やかな顔で僕を見つめてくれて。
「大丈夫ですよ」
子供に言い聞かせるように、ゆっくりとそう言ってくれた。
その様子が、まだキスしてくれてた頃の本宮くんに戻ったようで、直接の抱擁は無くても、包み込まれているようで、僕もいくらか穏やかな気持ちで口を開く。
「最近、本宮くん、あんまりキス、してくれなくなったでしょ?
会うのも、外が多いし。
いつからかなって思ったら、本宮くんの部屋で……その……」
恥ずかしくて口ごもると、本宮くんが代わりに僕の言葉を口にする。
「俺が、将吾さんに無理させちゃった時…?」
「違う!無理とかじゃなくて…!」
「うん、でも、怖かったのはホントでしょ?」
少し困ったような、切なそうな顔で言われて、やっぱり、僕の気のせいではなかったと知る。
「怖かった…。
でも、いやだからとかじゃなくて。
どうなっちゃうか、分からないのが、怖かった。
ちゃんと出来るかとか、痛いのかなとか、本宮くんに幻滅されたらどうしようとか。
気持ちが、ぐちゃぐちゃになっちゃって…」
「うん、ごめんね。
将吾さん、初めてだったのに、驚かせて」
本宮くんが、辿々しく話す僕のそばに来てくれて。
そっと肩を抱き寄せられる。
「ううん、僕の方こそ、ごめんね」
「勘違いって、そのこと?
俺に、嫌われたと思った?」
「それも、ある。
やっぱり、男同士は、無理だったのかなって。
その……セックス……も、出来ないような関係って、面倒だよなって」
「そんなことない。
面倒なんて、思うはずないでしょ?
俺も、怖かったんです。
将吾さんを傷付けたらどうしようって。
でも、二人きりで、将吾さんを目の前にして、手を出さない自信がなくて。
だから最近、どうしても部屋に呼びづらくて。
不安にさせてごめんなさい」
ギュッと抱き締めてくれた腕が、包み隠さず話してくれる声が、震えていて。
こんなにも僕のことを大切に思ってくれている彼を疑ってしまったことに、罪悪感を覚える。
“勘違い”のこと、敢えて話す必要もなかったかもしれないけれど、後ろめたい思いが嫌で、意を決して口を開いた。
「ホントはね、昨日、本宮くんから約束のキャンセルのメールを貰って、“もうダメかも”って思って。
こんなに苦しいなら、これ以上好きになる前に終わりにしたいって思って、ここに来たんだ」
「え…!?」
“終わり”の言葉に、本宮くんがガバッと身体を離して、僕を凝視する。
僕の肩を掴む手に力がこもり、目は驚愕に見開かれていた。
「偶然、桐島さんがここに入っていくのを見たんだ。
その時は、桐島さんだって気付かなくて。
裏切られたと思って、通路で立ち尽くしちゃって。
いつの間にか結構時間が経ってたみたいで、桐島さんがここから出てきて。
で、見つかったんだ。
本宮くんの相手が、桐島さんだって思って。
あんな素敵な人に敵うわけないって思って。
僕が、訳わかんなくて泣いちゃったら、桐島さんがここに入れてくれて…」
ぐちゃぐちゃの気持ちをなんとか言葉にする。
嗚咽も混ざって、きっと聞きづらかっただろうけれど、彼は頷きながら、真剣に聞いてくれていた。
「それが、将吾さんの“勘違い”?」
「うん…」
「そっか。
不安にさせてごめんね」
そう言って、本宮くんはまた僕を強く優しく抱き締めてくれた。
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