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デート 7
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「将吾さん、まだ時間大丈夫ですか?」
水族館を出て駐車場を歩いていると、本宮くんから訊ねられる。
「うん、平気だよ。
どこか行きたいとこあるの?」
そう答えると、買い物に行きたいと言われて。
勿論断る理由などないし、せっかくだから本宮くんが普段どんな所で買い物をしているかも知りたくて、一も二もなくOKした。
連れてこられたのは、水族館から程近いショッピングモール。
大勢の人で賑わっていて、また邪魔が入るのではないかと内心心配したが、意外と皆他人なんか見ていない。
そもそも、メンズカジュアルのエリアに入れば、女性の数はぐっと減る。
いても、彼氏や旦那連れだから、本宮くんに声をかけてきたりはしない。
僕の心配は杞憂に終わり、のんびりとお店を回る。
「いらっしゃいませー。
何をお探しですか?」
二人でいろいろ物色していると、店員から声をかけられる。
それを、本宮くんは「大丈夫です、自分で見ますから」って笑顔でかわしていた。
笑顔なのに、露骨に“放っておいて”って顔に書いてあって、ちょっと面白い。
「何笑ってるんですか?」
「へっ?」
どうやら、顔に出ていたらしい。
ツンッと頬をつつかれる。
「ごめん、何でもないよ。
本宮くんって、店員さんと話しそうなのに、ちょっと意外だっただけ」
流石に“嫌そうな顔してた”とは言えずに、そう答える。
「あー、普段は一人で買い物するんで、割りと話しますね。
新作とか教えてもらえるし、仲良くなると入荷したてでまだ出してないヤツとか見せてもらえるし」
「そうなんだ?」
やっぱり、お洒落な人って違うな。
僕なんて、話し掛けられるの苦手で、普段は量販店ばかりだし。
今日の格好は流石に気合い入れたけど、殆んど店員さんに薦められるがままに――明るい色だけは恥ずかしくて断固拒否したが――買ってしまって、“教えてもらう”って発想は無かった。
感心してると、本宮くんがやおら近付く。
「でも、今日は将吾さんとデートでしょ?」
耳元に口を寄せて、甘く低く囁く。
「………っ!?」
本宮くんの吐息のかかった耳を抑え、目を見開く。
混乱して、言葉が出ない。
抑えた耳は熱を持ってて、きっと真っ赤だ。
「ごめんなさい、ちょっと調子に乗っちゃいましたね。
もうしないから、はい、これ着てみて?」
差し出されたのは、グレーのジップアップパーカー。
だけど、フードの縁やジップの縁の裏地が赤いチェックで。
どう見ても僕には着られないデザインだ。
「え?これはちょっと派手でしょ?」
戸惑って受け取らない僕に、本宮くんはニヤリと笑う。
「試着くらい良いでしょう?
それとも、耳元で囁きながらお願いされたいですか?
どっち?」
「え?何その選択肢?」
若干引き気味の僕にはお構いなしに、本宮くんが迫る。
けれど、このニヤニヤは、本気だ。
まだまだ短い付き合いだけれど、これだけは確信できる。
そして、後者を選ぼう物なら、僕は確実に愧死するだろうことも。
「分かった!着る!着るから!」
僕の慌てぶりが余程可笑しかったのか、本宮くんは涙を滲ませて笑っている。
パーカーだけだから、その場で薄手のカーディガンを脱いで、鏡の前でそれを羽織る。
んー、やっぱり、襟元の赤が落ち着かない。
「将吾さん、こっち向いて?」
おずおずと本宮くんに向き直ると、先程のからかうような笑みは無くて。
「ん、似合ってます。
明るすぎるのは苦手かもしれないけど、このくらいの差し色入れた方が映えますよ。
こっちも試してみて?」
そう言って、今度は同じシリーズなのか、似た色合いのカーディガンを渡される。
何着か着せ替えして、本宮くんは漸く満足したらしい。
「やっぱり最初のパーカーが一番可愛いかな。
ちょっと待っててくださいね」
僕が私服に戻って襟元を正している間に、本宮くんが会計にパーカーを持っていってしまう。
「え?待って!
自分で払うよ」
引き止めると、本宮くんが哀しそうに振り返る。
耳も尻尾も、ペタンと垂れ下がっている。
「初デート記念に、プレゼントしたい。
ダメ?」
なんでこの人は、必要以上にイケメンなんだろう。
そんな事言われたら、ダメとは言えないじゃないか。
「分かった、ありがとう。
でも、一方的なのはダメ。
本宮くんのは僕が買うからね」
子供に言い聞かせるようにそう言うと、どうやらその答えは彼のお気に召したらしい。
「はい、じゃあ、将吾さんが俺の選んでくださいね」
満面の笑みで頷いてレジへと向かう本宮くんの背後に、尻尾をブンブン振り回す幻を見た。
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