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デート…の後のお話
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A FEW MONTH AGO ......
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「おはようございまーす。
あれ?風間くん、眼鏡?」
「おはようございます。
あー、ちょっと目が痒くてコンタクト入れられなくて」
「大丈夫?」
「大丈夫です、ありがとうございます。
アレルギーですかね、たまにあるんですよ」
先輩の女性社員とそんな話をしていると、今度は給湯室から後輩の女性社員が戻ってきた。
「おはようございます。
あれ、風間さん、眼鏡ですか?」
やっぱり、気になるよね、急に眼鏡だと。
ただでさえ地味なのだから、会社ではコンタクトをしているのだが、今日は痒みが酷くて無理だった。
眼鏡無しでも、パソコンくらいは見えるだろうか。
そう思って眼鏡を外そうとしたのだが、思わぬ言葉に手が止まる。
「その眼鏡いいですね。
似合ってますよ。
たまにかけてくればいいのに」
今までの物だったら決してこんなことは言われなかっただろうが、これは前に本宮くんが選んでくれた物だ。
ぶつけてフレームを曲げてしまって買い替えようとしていたら、「俺に選ばせてください」って言って。
選ぶ人が違うと、眼鏡はオシャレなアイテムになるらしい。
「あれ?
眼鏡に気を取られてたけど、髪の毛切った?」
「あ、はい」
そんなに長さは変わっていないが、女の人はこう言うところ、目敏いな。
流石に美容院にまでは付き添ってもらいはしなかったが、前に本宮くんがテレビを見ながら「将吾さん、こういう髪形似合いそう」と言ってくれたタレントを見て、それに似せて貰った。
改めて考えると、僕って主体性がないな。
全部、本宮くんの言いなり。
最近は買い物の時に必ず“本宮くんはこれ好きかな”などと考えてしまう。
僕としては嬉しいんだけど、こう言うの、本宮くんにとっては重いのかな。
うざがられてたりして。
ちょっとネガティブな気持ちになってしまうが、それもまた思わぬ言葉で遮られる。
「風間さん、最近綺麗になりましたよね?」
「え?」
「あー、分かるわ。
男の人にこんな事言ったら悪いけど、綺麗って言うか、可愛いって言うか。
とにかく、変わったよね」
「前はぶっちゃけ地味な感じでしたけど。
あ、ダサい訳じゃないですよ!
ただ、大人しめの色が多かったから」
「最近は明るめの差し色多いよね。
無地のワイシャツじゃなくて、カラーシャツ多いし、ステッチとかさりげなく可愛い」
「小物がおしゃれな人っていいですよねー。
あー、私の彼氏にも見倣わせたい」
変わったのは嬉しいけど、誰一人として格好いいと表現しないのは少し複雑だ。
いや、本宮くんは格好いい相手は求めてないだろうから、いいのか?
「彼女の影響?」
「ふぇ!?」
ほぼ図星を付かれて、変な声をあげてしまった。
これでは、肯定しているのも同じだろう。
「へぇー、風間さんって、彼女に合わせちゃうタイプですか?」
「いや、そう言うんじゃなくて…。
えっと…」
「そこー、何しゃべってんの?
俺のコーヒーは?
俺、朝のコーヒー無いと死んじゃうよー」
「げぇ、竹田来たよー」
「すみませーん、今お持ちしまーす、竹田係長」
ちょうどいいタイミングで、上司が現れた。
正直あまり好かれてはいない人だが、今日ばかりは助かった。
女性陣は苦々しい顔をしながらも、蜘蛛の子を散らすようにそれぞれの場所に行く。
僕も、始業前に今日の作業の確認を始めた。
が、先程の言葉が頭をちらつく。
僕は、そんなに分かりやすいのだろうか。
本宮くんは、そう言うの嫌じゃないかな。
イマイチ集中できないままに、休憩時間が来てしまった。
「かーざーまーくんっ、お昼行かない?」
突然、背後から桐島さんが湧いて出る。
この人、いつもタイミングが絶妙だ。
エスパーなんじゃないかと半ば本気で思ってしまう。
桐島さんには、本宮くんのアパートで会ってから、前以上に親しくしてもらっているのだ。
「はい、ぜひ」
さっきの話も聞いてほしくて、即答する。
「じゃあ、行こうか?」
「はい。
休憩入りまーす」
桐島さんと連れ立って歩くと、やっぱり女性陣が、ざわめいていた。
「桐島さん、ちょっと聞きたいんですけど…」
会社近くの定食屋で注文してすぐに、そう切り出す。
「ん?柳がどうかした?」
まあ、僕が聞きたいことなんて本宮くん関係だとすぐに想像付くだろうが、改めて名前を出されると少し照れ臭い。
熱くなる顔をパタパタと手で扇ぎながら、今朝の話をした。
「つまり…、ただのノロケ?」
僕の話が終ると、ちょうど定食が届いて。
箸を手にしながら発した桐島さんの第一声が、それだった。
「いえ、そうじゃなくて。
本宮くん、嫌じゃないかなって。
相手に合わせすぎるのって、重くないですか?」
改めて要点をまとめると、桐島さんがクスリと笑って言った。
「まあ、度が過ぎたら嫌だけど、風間くんの場合はちょっとオシャレに気を使ってるくらいでしょ?
相手に合わせ過ぎて仕事に影響するとか、周りに迷惑かけるとかじゃないんだから、いいと思うけど」
「なら、いいですけど…」
どう説明しても、桐島さんにはノロケにしか聞こえないようだ。
「さて、そろそろ戻ろうか。
ちょっとトイレ行ってくるね」
結局イマイチ納得できないままに、今日のお悩み相談は終わった。
会社に戻ると、エントランスで桐島さんの携帯が鳴る。
ちょっとごめんと言って携帯を確かめながら、桐島さんがクスクスと嬉しそうに笑う。
本宮部長から、メールでも来たのだろうか。
けれど、桐島さんはその画面を僕に向けてきて。
「ほら、大丈夫でしょ?」
何かと思って覗くと、本宮くんとのラインの画面だった。
――――――――
→風間くん、最近お前の趣味に寄せてきてるけど、重くないの?
そう言うの、ウザくない?
←はぁ!?そんな訳ないだろ!
いくら久弥でも、ぶっとばすよ?
←将吾さんに余計なこと言うなよ!
お前のせいで嫌われたらマジで怒るからな!
――――――――
さっきのトイレは、これを送るためだったのか。
なんだか、物騒な言葉が見えるけれど、取り敢えず嫌われてはいないらしい。
僕に向けての言葉なら気を使ってくれたのかと思うけど、気心知れた桐島さんにそう言うのだから、信じてもいいだろうか。
それにしても、この文章…。
嬉しさ半分、恥ずかしさ半分。
桐島さんの顔をまともに見ることすらできない。
「風間くんに足りないのは、自信だよ。
もっと図々しくなっても、柳はウザがったりしないって。
むしろ、喜ぶよ」
きっぱりと断言されて、どうにもいたたまれない気持ちになる。
取り敢えずまずは…、今日の仕事が終わったら、本宮くんに電話して、嬉しい気持ちを伝えよう。
―――end―――
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