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ご挨拶 1
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third seasonから更に一年ほど経ってからの二人。
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「しょーうーごーさんっ」
「ただいま」
「お帰りなさい」
仕事を終えてアパートの扉を開けると、本宮くんが出迎えてくれた。
両手を広げて僕が抱きつくのを待たれるのは、流石にまだ慣れない。
そんな僕にはお構いなしに、本宮くんはすりすりとマーキングしてくる。
外で会ってるときは格好いいのに、二人きりだとやっぱりゴールデンレトリバーのようだ。
「本宮くん、くすぐったいよ」
首筋にかかる吐息の感触に笑ってしまうが、本宮くんはマーキングをやめない。
「だって、久しぶりなんですもん」
“だって”とか“もん”とか、少し甘えるような口調が可愛い。
でも実際、最近の本宮くんは忙しかったから、僕も会えて嬉しいのだけど。
大学も三年の後期に入り、実験やら学会のお供やらで暫くバタバタしていた本宮くん。
文系の僕にはよくわからないけど、理工系の人たちは、専攻にもよるんだろうけど、学部棟の鍵を貰って、夜中も研究室に出入りしたりするらしい。
数時間おきにデータを取ったり、確認が必要だったりするんだそうだ。
特に本宮くんは院に進みたいらしいから、バイトも減らして研究室に入り浸っていた。
ただ、カフェの店長さんからは週一でも短時間でもいいから続けてと懇願されたらしく、今も時間に余裕があれば、カフェのバイトにも出てる。
時給のことだけ考えると家庭教のバイトの方が割りがいいんだろうけど、本人もあの性格だから研究室に閉じ籠った後の気晴らしになって、楽しいみたい。
けど、そのカフェのバイトすら暫く休まないといけなかったらしくて、今日の本宮くんはスキンシップに飢えていた。
「将吾さん、急いでご飯作るから、着替えてきて?
あ、シャワーは後で一緒に浴びましょうね」
軽くチュッとキスをして、本宮くんが甘えてそんなことを言う。
「はいはい、着替えてくるから、待ってて。
一緒に作ろ?」
本宮くんと付き合うようになって、少しずつ料理もできるようになってきた。
まだまだ、本宮くんには敵わないけど。
「はーい」
大きな子供みたいな本宮くんの頭をわしゃわしゃと撫でる。
こういうとき、兄弟の真ん中って便利だ。
年の離れた妹ができるまでは末っ子で甘えさせてもらってたし、妹が出来てからは憧れの“お兄ちゃん”になれて、妹を溺愛していた。
そのせいか、割りと甘えるのも甘えられるのもどちらも楽しい。
本宮くんは、本人曰く一人っ子だからどちらも不得手らしいが、僕から見たら、部長から溺愛されて育ったのがよくわかる。
並んで台所に立って、近況報告しながら夕食を作る。
ゆっくり会うのはホント久々だから、話題は尽きなかった。
本宮くんが忙しくしている間にも何度か桐島さんと昼食をとったことを伝えたら、ちょっとだけ機嫌が悪くなって、そんな様子も何故か嬉しくてほっこりと心が温まった。
僕が切った野菜は相変わらず不格好だったけど、本宮くんは終始笑顔で食べてくれた。
「将吾さん、ちょっといい?」
空になった食器をシンクに持っていこうとすると、本宮くんから呼び止められる。
「何?」
手にかけた食器を置き直して、座り直す。
「俺、院に進学するつもりって、言ったでしょ?」
「うん」
「まだオヤジにはちゃんと言ってなくてさ。
進学するとしたら、バイト続けたとしても、金の面とか世話になると思うから、今週末にでも今のところの考え、伝えておこうと思って」
「そうだね」
自分の就活のことを懐かしく思いながら答えると、本宮くんの真剣な眼差しが向けられる。
「でね、せっかくだから、将吾さんのことも紹介したいんですが、一緒に行ってくれませんか?」
改まった話し方で、本宮くんが告げる。
「…………………。
………ふぇ!?」
一瞬、意味が解らずに、変な声を出してしまった。
えっ…?
今、本宮くんの進学の話だったよね?
紹介?
本宮部長に?
僕を?
唐突過ぎて、頭が付いていかない。
何も言えずに口を開いたまま瞬きを繰り返す。
「あ、“ついで”とか、軽く考えてる訳じゃないですよ。
ホントは別々の方がいいかとは思ったんですけど、進学のことも、将吾さんのことも、俺の将来のことだから。
それに、進学の事は時間の問題だからいつかは話すけど、将吾さんの紹介は何か切っ掛けが無いと、なかなか話す機会も作れないだろうから」
いや、“ついで”を嫌がってる訳じゃなくて。
本宮くんの将来には、僕がいるってこと…?
え、でも、部長に挨拶…???
本宮くんの言葉が、断片的にしか頭に入ってこない。
「えっと…あの…」
相変わらず開いた口が塞がらない僕のことを、本宮くんは何か勘違いしたらしい。
「無理強いはしません。
男同士だし、部署が違うって言っても、将吾さんにとっては上司だし。
でも、将吾さんが嫌じゃなかったら、一緒に行ってください」
本宮くんが恭しく頭を下げる。
真剣な思いに、胸が熱くなった。
「嫌じゃ、ないよ。
ただ、もう一度よく考えて?
いくら本宮部長が桐島さんと付き合ってても、やっぱり自分の息子が男と付き合ってるのは、ショックだと思う。
本宮くんは、まだ学生だし。
僕の存在のせいで、部長との仲が拗れて、進学に影響する可能性だって、あるんだよ?」
真剣な本宮くんに失礼のないように、一つ一つ言葉を探しながら、そう伝える。
嫌じゃないと言うのは本心だけど、心配がないと言ったら嘘になる。
本宮くんは女性も愛せるんだから、将来社会に出て、素敵な女性と出会うかもしれない。
そんな不安が、僕の気持ちをぐらつかせていた。
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