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巡り逢う2
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「はあ、はあ、はあ…」
一人暮らししているアパートの自室の扉をバタンと閉めると、響はその扉を背に崩れ落ちるようにして蹲った。
まだ足ががくがく震えているのを自覚し、小さく舌打ちして唇を噛む。
(まだ、こんなにも動揺していたんですか、私は…)
先ほど囁かれた耳が熱い。
『響ー!お前、いつまでそんなとこおんねん!おいてくでー!』
(違う…忘れろ…!)
『お前の標準語、なんやドラマみたいで、俺結構好きやけどなあ』
(今の芳士は、あの時の芳士とは、別人なんですから…)
視界が霞んだと思った次の瞬間、玄関のタイルにポタポタと数滴の雫が落ちる。
ーーーこんな調子の自分にも、いい加減反吐が出そうだ。
父は今やその実力を認められて大手の会社の社長を勤めているが、昔は国内のあちこちを駆けずり回っており、母と一人息子であった響は勤務先が変わるたびに引っ越しと転校を繰り返していた。
そんな彼の一家が大阪へと引っ越してきたのは、ちょうど響が中学一年生になった5月のことだった。
度々の転校と引っ越し。慣れない方言についていけないノリや会話。
そんな毎日にいい加減うんざりしていた響は、いつの頃からか他人と深く関わることを避けるようになっていたのだ。
(どうせ仲良くなったところで、いずれは転校するんだし…)
もとより成績が良かったのと、切れ長の目のせいできつく見られがちな風貌は、いつの間にか「近寄り難い人」というイメージを響に作り上げ、また、いちいち転校するたびに一人だけ標準語だとからかわれるのが嫌で小学生のときから癖になっていた敬語口調は、いっそうそのイメージに拍車をかける。
(どうせ今回も似たようなものでしょうし、とりあえず適当に自己紹介だけしておけば…)
新しい中学の教室の前で、中にいる担任の教師の「転校生を紹介するぞー」という声を冷めた表情で他人事のように聞いていた響は…
ーーーそう、完全に予想外だったのだ。
「はじめまして、福岡第三中学から来た笠松響です。よろしーーー」
「うわあああすっげええええ!」
ーーー自分の自己紹介を中断させる人物がいるなんて。
「須ー田、今はこいつが自己紹介してんねや、黙っとけ」
「いや、でもさ!先生も見てみいや!めっちゃ別嬪やんけこいつ!こーゆうやつ待ってたんやこーゆうやつ!」
そう言いながら立ち上がり、教卓の前に立つ響の前へとずかずか歩いてくる金髪頭。
(金髪にピアスって…いかにも頭が悪そうな…)
第一、中学生にもなって人の話一つ黙って座って聞くこともできないのか。
チラリと担任の方を見ると、もはや諦めているのかあさっての方向を向いてため息をついている。
「へえ、やっぱ別嬪は間近で見ても別嬪やなあ!」
自分に顔を近付けてじろじろ見てくるこの金髪が、とにかく不快でしかない。
「…じろじろ見るの、やめてくれませんか?」
「え?ああ、悪りぃ悪りぃ」
不快感を隠しもせずにそう言う響に、目の前の金髪は意外にもすんなり謝って身をひいた。
見た目に反して、案外素直な性格なようだ。が。
「お前、名前は?」
「笠松響…あなたがギャーギャー騒ぎ始める前に、一度言っていたと思うんですが?」
こんな奴の言うことを素直に聞くのはどこか癪で、あえて毒を吐いてやる。
「そうぷりぷりすんなって。俺、須田芳士。芳士でええで、よろしゅう」
それが、一番最初の出会いだった。
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