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巡り逢う3
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「お前さあ、なんで誰にでも敬語で喋るん?」
転校して約二ヶ月がたったある日のこと。
蝉の鳴き声が響き渡る屋上の陰で昼食を食べていた響は、背後から聞こえてきた声にぎょっとして振り返った。
「…はあ…またあなたですか…」
彼の視線の先ーーー背後にある、屋上の唯一の出入り口である扉にもたれかかるようにして佇んでいたのは、あの金髪ピアス少年・須田芳士。
あの転校初日から、彼は響が一人の時を見計らってはちょこまかと付きまとってくるのだ。
「ああ?またってなんやまたって。お前、いっつも寂しそーに飯食っとるから、わざわざこの俺が相手しに来たったんやんけ」
「誰が寂しそうにしてるっていうんですか。本気でそう言ってるなら一度眼科に行ってきてください」
「…お前なあ…」
呆れたように溜息をつくと、芳士は響の隣に腰をおろした。
が、それも一瞬のこと、すぐにごろんと地面に寝転がる。
「制服、汚れますよ」
「…お前、ほんま細かいやっちゃなあ」
もう一度呆れたようにそう言いながら視線だけを向けてくる芳士に対し、響は無言で持参していた水を一口飲んだ。
「で?何でなん、その敬語」
…あくまで質問は続けるつもりらしい。
「…別に。小さい時からの癖みたいなものなので」
「ふーん、じゃ、俺らの方言みたいな感じか」
「…少し違うと思いますけど…」
そう言ってチラリと芳士を見ると、じっと青空を見つめているその表情は意外にも無表情で。
ーーーてっきり、面白がって首を突っ込んできているだけだと思ったのに。
「あなたこそ…」
「ん?」
「あなたこそ、どうして私に付きまとうんですか?私なんかより一緒にいて楽しい友達なんかもっといっぱいいるでしょう?」
どうせ「反応が面白いから」などという失礼極まりない返事が返ってくるのだろうと思いつつもやはりなんとなく気になってそう問えば、芳士はふっと自虐的ともとれる寂しげな笑みを浮かべる。
「やっぱ、そう見えんのかな…」
「…は?」
「俺な、実はクォーターやねん」
初めて聞くその事実に、響は驚いて軽く目を瞠った。
ーーーそんな話、聞いたことがない。
須田芳士については、この二ヶ月で様々な噂を耳にした。だが、そのうちの大半は「顔も容姿も派手で喧嘩も強い不良」というものだった。
「とはいえ顔はおもいっきし日本人やしな。目の色もちょっと茶色いくらいでそこまで目立つわけちゃうし。受けついだんゆーたら…この髪くらいや」
「…ってことはその色は…」
「せや、地毛や。染めたと思うてるやつも多いみたいやけどな」
そう言って芳士はにやりと笑うと、がばっと起き上がって響の顔を覗き込む。
「ついでにいうと、このピアスはじいちゃんの形見や。まあ、あけたんは自分の意思やけどな」
「………」
「金髪にピアスに、おまけに喧嘩もそこそこ強い。ぱっと見よっぽどこわ見えんねやろなあ。俺によってくるんは大抵俺に取り入りたいやつか俺の機嫌伺うやつばっかで、みんな俺の言うことにはいはい頷いて従ってるだけや。んなやつら友達や言わんやろ」
一息にそう言う芳士の言葉を、響は黙って聞いていた。
確かに、自分も初めは芳士の派手なルックスに唖然としたものだ。
最も、響が唖然としながら思ったことは「怖そう」でも「強そう」でもなく「頭悪そう」だったけれど。
(これからは、外見だけで判断してはいけませんね…)
そう反省していると、芳士は近付けてきていた顔を離し、再び空を見上げながら言った。
「お前がはじめてなんや、この俺に思ったこと遠慮せんと言うやつ」
「………」
「せやさかい、興味をもった」
「…悪かったですね、配慮の足りない人間で」
「そういうところがやーゆうてんねん」
そう言う芳士の顔はどこか清々しく嬉しそうで。
ーーー珍しく、この人になら言ってもいいのではないか、と思ったのだ。
「私が…私が、誰に対しても敬語なのは、その方が楽だからです」
いきなり最初の質問の答えを返され、芳士はいささか驚いたような顔をしたがそれでも黙って聞いていた。
「なんせ転校の多い身ですから、当然のことながら方言なんてまったくわからない。だからと言って普通に標準語を使えばそれはそれで笑われる。小さい頃の話ですけどね。だから、敬語でその差をごまかしてたんですよ。今から考えると馬鹿馬鹿しい限りですけど」
「………」
「まあ、今はそれが癖になってしまったので無意識のうちに使っているだけですけどね」
「でも」
自嘲気味にそう言う響を遮ったのは、芳士の穏やかな声だった。
『確かに俺、お前が喋ってんのは敬語しかきいたことないけど。けど、お前の標準語、なんやドラマみたいで、俺結構好きやけどなあ』
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