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巡り逢う5
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「笠松さーん、こっちこっち!」
その日の夕方。成徳学園の校門前で見事な葉桜に観入っていた響を手招きしたのは、校舎の三階の窓から上半身を乗り出すようにした少年だった。
(確かあれは、会計の…)
澤田亜樹といったか。
赤っぽい茶髪にクリッとした目の見た目は可愛らしい一つ年下少年だが、喧嘩の強さは半端じゃないらしく、いわゆる成徳の番長のような存在らしい。…という話を、前回のレストランでの打ち合わせで聞いた気がする。
「そこの昇降口を入ってすぐのところに階段がありますからー!それを昇って三階まできてくださーい!」
上から手をひらひらと振る亜樹に悪気はないのだろうが。
(迎えが校門まで来ると聞いたのは、私の聞き間違えだったのでしょうか…?)
これが迎えだとしたら、適当すぎる。
などと思いつつも、ここで立ち尽くしていても仕方がないので言われた通りにすぐ目の前にあった昇降口から中へ入った。一応来賓用の昇降口でもあるようで、置かれていたスリッパを遠慮なく拝借する。
途中、すれ違う一般生徒からじろじろと見慣れながらも三階へとたどり着きーーー
響はその目の前の部屋の扉を見て絶句した。
『うぇーるかーむ花の成徳へ!
生徒会室はこの部屋だよん♪』
「…一体どうなってるんですかこの学校は…」
「あー、来た来た!笠松さん、いらっしゃい!この看板、わかりやすくていいでしょう?副会長が作ったんですよ」
先ほどはそこから手を降っていたのであろう亜樹が、三階と四階の階段の踊り場からひょっこりと現れる。
「何というか…よくあの三條会長が許しましたね」
成徳の会長の三條建といえば、喋り方からしても真面目で厳格な性格だ。
「あー…実はそれが、今日会長はちょっとした事情で休みなんですよ。それで副会長が頑張っちゃって」
ーーーというか、副会長とは確か…
(芳士、ですよね…道理で馬鹿っぽいと思った…)
まるで小学生の工作だ。
「おい、お前いま馬鹿っぽい思たやろ」
と、その時、背後から、一番会いたくなかった人物の声が聞こえてくる。
「あれ、誰がそんなこと言いました?被害妄想とはカッコ悪いですねえ」
この間のことを、ここ数日眠れていないほど気にして動揺しているなんて、この男にだけは絶対知られたくないから。
「誰が被害妄想やねん、あほ。…お前こそ、もうちょい弱ってるかなおもたのに、相変わらずやな、おもろない」
ーーー本当はただの去勢にすぎないけれど。
それでも、この男にさえ勘付かれなければそれでいい。
ーーーひたすら毒を吐いて、近付けなくすれば、いくらこの男でも気付けまい。
「誰もそんなところに面白さを求めていないので結構。それより、打ち合わせをするなら早くしてください。こちらも暇ではないので」
「へいへい、暇ちゃうのはこっちかて一緒やわ。亜樹ちゃん、俺の教室にあるファイル取ってきて?いつもの書類入ってるピンクのやつ、わかるやろ?」
「あ、は、はい!」
響と芳士の関係を知らないために、目の前で冷戦を繰り広げる二人に明らかに戸惑っていた亜樹は、芳士の呼びかけにはっと我に返って駆けていった。
(悪いことをしましたね…)
彼は、関係のない人間なのに。
「おい、入んならはよ入れ。早よしろゆうたのはお前やろ」
亜樹の駆けていった方向を見ながらそんなことを考えていた響は、生徒会室のドアを開けたまま押さえてそう言う芳士を一瞥すると、無言で中へと足を踏み入れた。
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