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河崎の部屋
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二回目の河崎の部屋。不要なものは殆んどなくて、質素とも言える部屋。しかし、一回目の時にはいなかった人物がそこにはいた。河崎も、玄関の扉を開けようと鍵をさした時に一瞬手が止まっていた。恐らくその人物は、突然現れたのだろう。
「謙兄、来るなら来るってあらかじめ言ってよ。」
怪訝な顔をして河崎はその人にそう言った。河崎のベッドの足元で腰を下ろしているその人は、金髪で身長が高くて、なぜか作業着を来ていた。
「ああ、二人共初めてだよな。この人、俺の従兄弟の早瀬謙三(はやせ けんぞう)。セツは名前だけ知ってると思うけど。」
河崎がそう言うと、その人は俺たちの方を見て明るい頭で軽くお辞儀をしてくれる。俺たちもそれに従ってお辞儀する。
「はじめまして、梅村です。」
「はじめまして、林です。河崎から早瀬先輩のこと少し聞きました。陸上部のエースだったって。」
セツがそう言うと、早瀬さんは苦い顔をした。
「そんな、昔のこと話したのか?」
視線は河崎に向けられていた。
「まあ、ね。」
「ふーん。」
少し垂れ下がった目で、俺とセツを交互にジロジロと見る。そして、にやりとした。正直、その表情は怖かった。
「まあ、座れよ二人共。謙兄、今からこの二人に勉強教えるから邪魔しないでくれよ。」
「勉強?」
驚いたように先輩はそう繰り返した。
「そうなんです。俺達、明日再試があるので、河崎君に教えてもらえるように頼んだんです。」
俺がそう言えば、納得したような顔をしてくれる。そして言う。
「分かった。じゃ、俺も教えてやる。」
見るからに不良そうなその人。俺は少し不安になる。
「梅村、謙兄は頭がいいから大丈夫だ。それに、俺もよく謙兄に勉強を見てもらってるし。」
俺の考えていることを悟った河崎が、照れくさそうにそう言った。
良かった。
それから、俺たちは小さな机に勉強道具を広げる。
「お前らさ、補修で何習ってんの?」
復習をしていくうちに、俺たちの馬鹿さに気づいた先輩はそう言った。
「謙兄、そんなことを気にしてると無駄に体力取られるよ。」
河崎は毒舌をふるった後、こう続ける。
「セツ、梅村。」
「何だ?」「何?」
「このままだと仲良く落第だぞ。」
ニッコリと微笑まれる。先輩はプッと吹き出して爆笑している。俺は背中につうっと冷や汗が流れ、セツを見る。共に同じ状況だと分かった。
それからというもの、これまでにないスパルタな指導のもとほどほどに出来るようになった。一日そこらでマスター出来るほど俺たちの脳みそはいい作りにはなってはいないらしい。
ごくたまに、先輩がワードを呟く。
「梅村君、1600年」
「関ヶ原の戦い。石田三成の西軍と徳川家康の東軍とが天下を争った合戦!」
「正解。」
「林君、足利尊氏」
「室町幕府初代将軍で、室町幕府を開いた人!」
「オッケー」
一通り掛け合いが終わり、先輩が俺たちに言った。
「いいか? せっかくこいつに教えてもらったのに忘れんじゃねーぞ? 忘れたくなけりゃ、風呂場とかでこんなふうにパッと自問自答してろ。」
ニヤリ。そんな表情をしていた。そしてなぜか、横にいる河崎の頭を撫でている。
「ちょっ! 謙兄、痛い!」
河崎の訴えも虚しく、ガシガシと乱暴に頭を撫で回す彼の手。俺たちを見ている目は、時折冷たい。
気のせいかな?
「さ、二人共素晴らしい進歩を遂げたところで、そろそろ河崎を借りてもいいかな?」
先輩が俺たちを見る目は、やはり冷めている。セツを見れば。少し戸惑っている顔をしていた。
「ああ、はい。じゃ、俺達ここ出ますね。な?」
君が手を差し伸べてくれる。
「う、ん。河崎、早瀬先輩、ありがとうございました。それじゃ、お邪魔しました!」
せっせと片付けて玄関へ出る。河崎は困惑しながらも「明日頑張れよ?」とだけ言ってくれた。
「なんか、早瀬先輩って苦手かも。」
君にそう言えば、苦笑いを浮かべる。
「俺達、嫌われたかな。」
「かもね。」
どうしたものかと二人で考えてみたが、賢くない俺たちに思いつくものなどなかった。そのため、俺たちはあまり気にしないことにした。
「そうだ、セツ、続きは俺の家でしない?」
せっかく教えてもらった内容が抜けてしまいそうでもったいなかったので、俺の家でお互いに問題の出し合いをすればいいと考えた。
「そうだな。」
優しく微笑んだ君。
ぐうぅぅぅ――
その表情を見て安心したせいかお腹が鳴った。君は驚きながら俺を見たあとすぐに笑った。そして、君のお腹も鳴った。俺たちは互いを見て笑い合う。
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