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ごめん
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カチャ
脱衣所の扉を開けると、真剣な面持ちで勉強をしている君の姿が目に入った。
ストン
俺は、無言でさっきまで自分が座っていた場所に腰を下ろす。その際、チラリと君を見れば、君もチラリと俺を見ていた。
「「あのさ」」
「なに? 透、先に言って。」
「いや、その。本当に、気にしなくていいから。」
「え?」
「だから、さっきのこと、気にしなくていいから。」
「そうじゃなくて、俺が聞きたいのは、そんなんじゃなくて……」
「セツ?」
潤む瞳で俺を見上げる君。戸惑いと哀しみの混じった瞳。
どうしてだ。
どうして言おうとしない。
「梅村君。」
「セツ? どうしてそんなに怒ってるの?」
「怒ってない。」
「怒ってるよ。セツが俺を”梅村”呼びするときはたいてい、感情が高ぶっている時だろ?」
「それは……」
「それは?」
気づけば、俺が問い詰めるはずだったのに君に追い詰められている自分がいた。
「それは、梅村君が俺に何も言ってくれないから。」
「……。気になるの?」
「気になる。気になるし、俺を頼ってくれないのも何かムカつく。」
「……正直なんだね。」
あ、笑った。
じゃなくて!!
「梅村君さ、俺に何か隠しごとをしてるんじゃないの?」
君が微笑む姿に口元が緩みそうになったのを堪えて、俺は尋ねた。
「隠し事っていうのかな。」
苦笑いを浮かべ始めた君。
「俺の過去に関することだよ。」
過去? そう言えば、葉山から梅村君の過去を少しだけ聞いたことがあった。いろいろと訳がありそうな感じだったのは覚えている。そして、その過去が原因で葉山が誰ひとり梅村君の傍に人を寄せ付けなかったということも。
君は微笑む。
「ちょっとだけ、待てて欲しいんだ。セツには、いつか必ず言うから。何があったのか、言うから。でもね、まだ俺の気持ちが追いつかなくてね。」
目の前でポロポロと落ちる雫。
「あれ? 俺、なんで泣いてんだろう。」
消えそうな程か細い笑い声で笑う姿。
見ていて苦しかった。
「……梅村君、その、ごめん。」
詰まる胸。
「ううん。俺の方こそごめんな。」
「梅村君……」
俺は、君の方へと体を向けて抱きしめる。
傷ついている君を癒やす方法が分からない。だから、俺なりに俺なりのやり方で君に詫びる。
もう乾いている君の髪の毛からは、いい匂いがした。
「セツ、髪濡れたまま。」
抱きしめられている君は、俺にほほ笑みかけてそう言った。
「ごめん。」
「いいよ。ドライヤーそっちにあるから、使って。」
「うん。」
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