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錆びれたブランコ
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すっかり、季節は秋になってしまった。
あれから、葉山と河崎、そしてセツと俺の四人でつるんでいる日々は変わっちゃいない。前期とも変わらない。ただ変わったのは、季節だけ。
学校下校中、赤や黄色に染まった公園の中を通って歩く。この公園の中を抜けたほうが近道なのだ。だが、俺はこの公演が好きではない。この公園は、あの人にあった場所だ。
人気のない公園。古くなった遊具は撤去され、今じゃ滑り台とブランコしかない。北風に揺れるブランコが軋む音が聞こえる。俺は、そのブランコの前に立ち止まってその姿をじっと見つめてしまう。
小学生の頃に変なお兄さんに会って、散々な目にあったにもかかわらず、中学生になった俺はまた他の人と付き合いだした。その人のことははっきりと覚えている。出会いも覚えている。
「嫌だな、こんなの。一番消えて欲しいのに。」
ぼそりと一人呟く。誰もいない公園。
結局あの人は今何をしているのだろうか。あの人のことが許せないし、未だに忘れられない。俺はそれなりに本気だったのかもしれないし、ただ気が狂っているだけなのかもしれない。
「透君?」
突然後ろから男の人の声が聞こえた。俺は聞き覚えのある声にハッとして後ろを振り返った。
「わ……若葉さん。」
「やっぱり透君だったんだ。」と言ってニッコリと微笑む俺よりも幾つか年上の若葉さん。優しい目をしているその姿を見て、俺の胸は締め付けられる。
「久しぶりだね。」
俺の前を通ってブランコに座る若葉さん。少しおしゃれで格好も秋めいている。
「どこに、行ってたんですか。」
俺も、すぐ隣にあったブランコに座った。若葉さんは困ったように笑う。
「さあ、どこだろうね。」
なんだそりゃ。
「若葉さん、俺……「透、突然離れて行ってごめんね。」え……」
俺の言葉を遮って、申し訳なさそうな表情で若葉さんがそう言った。
「一体、なんなんですか。」
「え?」
全く、この人が分からない。俺は苛立ちを若葉さんに向ける。
「散々俺を玩具のように扱ったあと、捨てましたよね。あっさりと。」
足で重心を変えると、キーキーとうるさいブランコの音。
「捨てた?」
不快な音しかしない中、若葉さんは大きな声を出した。
「俺は、透君を捨てた覚えはないけどな。」
え……
「俺は、大学に行ってるんだ。ちょっと遠くて一人暮らししてたんだけど、母親が体壊したってんで一人暮らしをやめてここに戻ってきたんだよ。それだけだ。だから、君を捨てた覚えもない。」
真面目な顔でそんなことを言う若葉さん。
「意味が分からないですよ。」
俺はただ呆れ笑うしか無かった。
隣のブランコが音を立てた。若葉さんがブランコから離れてこちらに向かってくる。
「透君、こっち向いて?」
下ばかり見ている俺に、若葉さんは優しく言った。それでも、俺は若葉さんの方を見ることはなく、自分の足を見つめる。
「実を言うとね。」
少しだけ距離を開けて若葉さんが話しだした。
「実は、怖くて逃げた。」
俺は驚いて上にある顔を見る。切ない顔をしている若葉さんと目がバッチリと合ってしまう。
「俺は、透君のことが好きだった。でも、好きになればなるほど怖くなった。俺と君は男同士。世間一般的に……特に日本じゃ異物を見るような目で見られる。俺はそれに耐え切れなくなって、高校卒業後に引っ越した。君と連絡を取り合わなくなったのもそのせい。」
背が高くて、茶髪で、茶色い綺麗な目。
ああ、そうか。
セツは若葉さんと似ている。
セツに惹かれたのも、そのせいなのかもしれない。
「透君? どうしたの? 泣かないで。」
俺は、若葉さんの言葉なんか耳に入っていなかった。この涙は、君への罪悪感。
セツ、ごめん。
もしかしたら、俺はすごくひどい人間なのかもしれない。
君を若葉さんと重ね合わせていたのかもしれない。
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