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出会い2
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若葉さんから告白を受けた俺は、ただ「ごめんなさい。」としか答えられなかった。小学生の頃出会ったお兄さんのせいで完璧に俺は狂ってしまっていたのだ。あの出会いのせいで俺の恋愛対象は同性。そして、普通の恋愛の仕方も知らないのだ。だから怖い。怖かった。
「透君。」
若葉さんがブランコを少し揺らしながら俺の名前を囁いた。
「なんですか?」
先程とは逆に、地についている足をじっと見ながら顔を上げない若葉さん。
「若葉さん?」
もう一度彼の方を向いて問いかける。
「透君、俺は諦めないから。」
未だにうつむいたままの彼。
「俺、本気だから。」
横顔からでも分かる真剣な表情。俺の心臓はドキリと鳴った。
ときめきと罪悪感と恐怖。
結局その日は、それ以外のことはなく終わった。
*
朝が来た。学校はいつもあって、授業も毎回決まった曜日に決まったものがある。俺は重い足取りで家を出た。今日もお弁当なんてものはない。
学校に行く途中にパン屋がある。俺はそこでお昼飯を買うのが日課だ。だが、今日はどうしても行きたくない。行きたくないが、学校の売店もこのお店のパンを売っている為、ここの人とは必ず会ってしまうのだ。しかも、若葉さんは学校に来る率も高い。
俺は諦めて、パン屋に寄った。
「いらっしゃいませ。」
店内に入ると聞こえる店員の声。パンの香ばしい匂いが充満している。いつもなら、この雰囲気と匂いで気分がよくなるはずだが、今日はその気になれない。店内をチラチラと見てみれば、やっぱりその人はいた。
「おはよう、透君。今日も早いね。」
朝早くに来ていたため、店内には俺と若葉さんしかいない。若葉さんはにこやかに微笑んで俺に声をかけてきた。どう対応したらいいのか分からない俺は、パンを選ぶフリをして「ええ、ありがとうございます。」とだけ述べた。
「もうすぐで、ピザトーストが出来るけど、どう?」
「ピザトースト?!あ……」
思わず若葉さんの方を向いて後悔をした。
「そう、君の大好きなピザトースト。」
ふわりと俺の頭を撫でながら、若葉さんはそう言った。
「透君、いつもこの時間に来るのは、出来たてのピザトーストを買うためでしょ?」
若葉さんは俺の行動パターンを見破っていた。驚いて目を見開いていると、若葉さんは手を俺の頭から離して中へと入っていった。すぐに、出てきたかと思うとそこにはいつもより具がちょっとだけ多く乗ってるピザトーストを持ってやってきた。
「これ、透君用ね。」
「え?」
「買うでしょ?」
若葉さんの優しい笑顔と、目の前にある出来たてのピザトーストとを交互に見つめる。
「そんなに、迷わなくてもいいよ。大丈夫。これくらいはサービスでよくやるから。」
俺は、ピザトーストの誘惑に勝てずにそれを購入した。
「じゃ、また明日ね。」
レジを済ませた俺に、若葉さんはそう言いながら手を振っていた。俺は、家族からもそんなことをされたことがなかったので、こそばゆくなる。
「ピザトースト、ありがとうございました。」
若干ハニカミながら、俺は店を出た。
*
「梅村、今日のピザトーストあたりじゃん?」
俺の横で葉山が言った。売店で買ったメロンパンを頬張っている。俺は、食べかけのピザトーストを見つめて、頬が緩んだ。
「うん。そうだね。」
「へー、なんかいいことでもあった?」
俺の表情を見て何かを悟った葉山が、ニヤリとした。
「別に。ないよ、俺にいいことなんて。」
「ふーん、そっか。」
苦笑混じりにそう言えば、葉山はあっさりとそう返した。それからは問い詰められることもなく、いつも通りの他愛もない話ばかりをした。
「どうでもいいけどさ。」
昼休みが終わろうとする頃、葉山は言った。
「どうでもいいけどさ、何かあったら俺に相談しろよ?」
そして、俺の返事を聞かぬまま自分の席へと戻っていった。
中学校といっても、所詮小学生の時と同じやつばかりだ。小学生の時の俺は、お兄さんのことがみんなに知られた。事件としても取り扱われた。親は俺を哀れな目で見て、周りのクラスメイトたちは俺を宇宙人のように扱って、正直俺は一人ぼっちだった。そんな時、葉山が手を差し伸べてくれた。葉山は頭がいい。成績もいいけれど、そういうんじゃない。頭の回転が速いのだ。その力で俺は誰からもいじめを受けなくなった。ただ、葉山以外には友達がいない。俺はそんな状況にいつも「仕方がない」と自分に言い聞かせてきた。だって、悪いのは自分なのだから。あの日、お兄さんについていかなければ、そもそも俺が早くクラスの奴らと馴染んで友達を作っておけばあんなことにはならなかったのだ。
俺の横に誰もいなくなって、嘲笑った。
「もう二度と、同じ目には会いたくないな。」
だけれども、求めてしまう。
誰かに愛されたいという、飢えた感情が俺の中にはいつも存在している。
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