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出会い4
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とうとうその日が来た。俺は若葉さんと待ち合わせた場所に行く。すると、10分前だというのにすでに来ている若葉さんと目があった。
「おはようございます。」
「おはよう。」
穏やかに笑っている若葉さん。「行こう」と言って、俺の手を握って歩き出した。美術展の展示会場は、ここから歩いて10分というところにある。
「若葉さん、早いんですね。」
俺の前を歩く若葉さんに俺は話しかける。
「え? 歩くの速かった? ごめん。」
若葉さんは歩を緩めた。
「違いますよ。集合の10分前にはもういたから。」
俺が笑いながらそう言うと、若葉さんは顔を少し赤らめてこう言った。
「透君に、早く会いたくて。」
俺も、顔が熱くなった。
10分経って、展示会場についた。若葉さんの持っていたチケットのお陰で無料で入ることができた。
入口に入ると、美術展特有の雰囲気が俺たちを包む。
「若葉さん、これとかすごいですよね。」
指差したのは、一枚の写真だった。若葉さんはそれを見て苦笑いをした。
「それ、俺の友達のだわ。」
「え? そうなんですか?!」
「うん。透君、写真が好きなの? さっきから、写真の展示品のところばかり見ている時間が長いけど。」
「はい。俺、絵とかよくわからないんで。写真だったら、綺麗な風景とか実物だから何となく好きなんです。」
そう言うと、若葉さんは少しだけ微笑んだ。
「実はね、透君。」
少し奥の方まで来たところで、若葉さんは口を開いた。
「透君には、言ってなかったことがあったんだけど、俺も展示品出してるんだ。」
「え!」
驚いて大きな声を出してしまった俺に、若葉さんは人差し指を口元に立てた。
「静かにね。」
「は、はい。あの、若葉さんのってどれですか?」
ひそひそ声で、だけれども少しだけ興奮気味に問いかけると、若葉さんはとある一角を指差した。
「あれだよ。」
「あ……」
「勝手に、ごめんね。」
何故若葉さんが俺に詫びを入れたのかというと、指さされた先には俺がいたからだ。
正確には、俺がパンを選んでいる時の写真が乗せられていた。
「これ、いつの?」
「これは、覚えてないかな。」
「え?」
「初めて君がうちの店に寄ってパンを選んだ瞬間だよ。」
初めて、来たとき……
*
”カシャ”
初めて立ち寄ったパン屋。中学生になっていつも売店でパンを買っていたけれど、葉山が学校のすぐそばにパン屋があることを教えてくれた。教えてもらった次の日から、俺はその店へと立ち寄った。
立ち寄ったはいいものの、選んでいる時にフラッシュと機械音がした。その方向へと振り向くと、横にはパン屋の従業員らしき人がいた。俺は、不審がって問いかけた。
「あの。」
すると、カメラを抱えたにこやかなお兄さんが「はい。」と答えた。
「写真……」
「あ、ごめんね。俺、写真撮るのが趣味でさ。他の人もこうやって撮ってるんだ。」
あまりにも爽やかに答えられたものだから、俺は「あ、そうですか。」とすんなりと納得をしてしまっていた。
*
あれか!
思い出した。
あの時は納得をしてしまったけれど、納得している場合ではなかった。
というか、あの時のお兄さんが若葉さんだったのか。
一人でうんうん頷いていると、若葉さんが笑っていた。
「思い出した?」
「はい。」
「そっか、それだけで嬉しい。」
気がつけば、手がずっと握られているままだった。
「俺、君が初めてあの店に来た時から君が好き。一目惚れだよ。」
写真の方をじっと眺めながら若葉さんはぼそりとそう言った。
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