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回想から
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俺と若葉さんは、このような出会いと家庭を経て付き合いだした。若葉さんはすごく優しかったし、かっこよかった。どこにも非の打ち所がないような人だった。
しかし、突然消えたのだ。
まず、毎朝いるはずのパン屋にいなかったところから始まる。パン屋には全く知らない人がいた。若葉さんの居場所を聞いてみるも、その人は新しく入ったバイトの人で若葉さんとはすれ違いで入って来たらしい。有力な情報は得られなかった。俺は、放課後もパン屋に寄った。夕方時にはパン屋の店長らしき人もいるのを知っていたからだ。だが、期待も虚しく店長でさえも行く先を知らなかった。
俺が知れたのは、若葉さんがどこか遠くに引っ越したということだけだった。
その後の俺は、荒れ狂った。学校にもあまり行かなくなった。そんな俺を心配してくれるのはやっぱり葉山しかいなくて。不登校になってから5日目、葉山が俺の家に訪ねてきた。
「梅村、最近お前どうした。」
冷静に葉山が俺にそう問いかけた。
「別に。」
俺は、ベッドの毛布に包まり壁を向いていた。
「はあ?別にってどういうことだよ。全然何もなかったかのような態度に見えねーぞ。」
不機嫌そうな葉山の声。
「お前には、関係のないことだよ。」
葉山には申し訳ないと思ってはいたが、これは俺の問題なのだ。
「お前、そうやってまた独りで殻に閉じこもって、それで元通りになりたい訳?」
「元通り……」
「そう、元通り。」
暗くて、誰もいない。一人ぼっち。学校でも家でも一人ぼっち。
「嫌だ……」
俺はぼそりとそう呟いた。静かで物音一つしない俺の部屋では、それでも十分すぎるくらい葉山の耳に届いていた。
「梅村、正直に言え。」
それから俺は正直に話した。
それからだと思う。葉山が俺のそばに人を寄せ付けない行動が悪化したのも。
*
「透君?」
若葉さんとの思い出にひとりふけっていた俺は、現実に意識を戻された。
「あ、あ、あの……」
現実は消えたはずの若葉さんが公園にいて、高校生になった俺がいる。若葉さんから告白を受けた。若葉さんは俺の答えを待っている。
いつまでたっても若葉さんの優しさは変わらなかった。
それでも、一度捨てられたのだ。
「でもさ、もう一度付き合ってって言っても、俺達別れようなんて言った覚えないしな。」
何も知らない若葉さんが呑気に笑っている。
俺はその言葉にチクリと来た。
つまり、俺が勘違いをしていて。
セツとの関係って、浮気に値するのか?
今、頭に浮かぶのはセツの顔だった。
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