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現実2
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以前の俺なら、迷わず自分をかばっていた。若葉さんが「俺のせいなんだろう?」といった時に真っ先に避難の目を向けていたに違いない。
「あの、若葉さん。」
そして、正直に話そうとはしなかったと思う。
「どうした? 透君。」
未だに握り締められている手。
「俺には、いるんです。」
「ん? 何が?」
主語のない言葉の意味に、若葉さんは気づいていない。
「俺には、恋人がいるんです。」
「え?」
真っ直ぐな視線を俺に向けないで欲しい。
今、泣きそうだ。
「俺、若葉さんがいなくなって……高校生になりました。そこで同じクラスのやつと付き合い始めたんです。」
目頭が熱い。何の涙だろうか?
若葉さんに対する申し訳なさからくるものなのか?
それとも、居心地の悪さからくるものなのか?
どちらにせよ、俺の犯した過ちはなかったことには出来ない。
「若葉さんがいなくなった日から俺は荒れ始めました。それを正してくれたのは葉山です。若葉さんも葉山のことは知ってるでしょう?」
「うん。」
「そのお陰で中学も卒業できたし、高校にも入学できました。」
「うん。」
「そこで、出会ったんですよ。そいつ、優しくて明るくて茶色い目をしてて……」
「うん。」
「とても、綺麗なやつなんですっ……うっ」
セツのことを思い出すたびに涙が溢れ出る。
潤んだ視界。
病院の個室には俺と若葉さんしかいない。
俺たち以外の音も無い。
「透君、ひとつお願いを聞いてくれるかな?」
沈黙の中、初めに口を開いたのは若葉さんだった。
俺の前で揺らぐ目。
「はい。」
俺に拒否権なんかない。
「そいつと別れて。」
俺に拒否権はないんだ。
「そいつと、別れて。」
だけれども、分かっているけれども、何だろうこの気持ちは。
若葉さんは、俺の唇にキスをした。
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