アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
手の届かない場所2
-
「君、ちょっと、何をしてるんだね?」
突然肩を捕まれた。
振り返るとガッシリとした印象のある強面の老人だった。
「私はここの管理人やってるんだが、さっきからこの部屋が煩いって連絡が来てね」
管理人…?
「全く…もう帰る時間だというのに…」
面倒だという表情を全面に浮かべた老人が零次を訝しげに見ている。
管理人!
「管理人さん…っ、ここ開けて下さい!もしかしたら中で、アイツが!」
「は?」
「1週間連絡が取れなくて、何かあったかも知れないんです、今、中で大きな物音がっ!早く開けて下さい!」
掴みかかるように詰め寄る零次に管理人の老人が怯む。
「君、ちょっと!落ち着きなさい」
「落ち着いてる場合じゃないんですよ!すごい音がして!」
きっと中でアイツに何かあったんだ。
早く助けに行かないと…
「…そ…そんなこと言われてもな…」
「手遅れになったらどうすんだ!早く!」
俺は半ば怒鳴る様に管理人の老人を急き立てた。
『不審者ではない証拠を見せろ』と言われ財布をひっくり返し免許証も社員書も手渡し、困った顔をされたところで携帯に届いたメールで救われる。
西村からのメールだった。
すぐさま俺はアイツの母親に電話をし、管理人に代わった。
九州訛りの母親の謝罪と俺の切羽詰まった様子に、やっと納得してくれたのか、しぶしぶ管理人室に鍵を取りに行ってくれた。
俺は管理人のじいさんが不自由そうな足を引きずって管理人室へ戻って行くのを見届けて、再びドアを叩いた。
こうしてる間にもアイツがもしかしたら助けを求めているかもしれないと思うとじっとしていることが出来なかった。
じいさんが鍵の束から部屋の鍵を探すのに足踏みをして待ちながら、アイツの最悪な姿を想像してしまって頭を振る。
「ああ…これだ…」
カチリと回されて動き出すドアノブと同時に見慣れた部屋へ転がりそうになって飛び込んだ。
「愁!」
少し雑然としているがいつもとさして変わらないアイツの部屋。
家主の姿を探す。
1DKのそんなに広くはない部屋。
リビングへ続く短い廊下を通り、その脇にあるバスルームを覗いてリビングへ出る。
居ればすぐに見える筈の顔が見当たらない。
テレビの音が煩い。
コンクリートの壁、何度も情事を重ねたベッド、テレビの前のローテーブル、ソファ、初めて見るこの部屋の昼の顔に少し違和感を感じながらアイツの姿を探し求める。
「!」
視線を下ろしてその片隅を一瞬掠めた映像に戦慄する。
ベッドと窓の間から覗く白い手首、細い指。
乱暴に束ねて押さえつけたあの手首、何度も俺の背に爪痕を残した指先…アイツのものだった。
「…愁っ!!」
俺はローテーブルにぶつかりよろけながらベッドに駆け寄った。
蹴り上げられて一瞬跳ねたテーブルがガシャンと派手な音を立てて着地する。
「愁!…おい、愁!!」
ベッドから落ちたのか、窓との1メートルもない隙間に俯せに倒れる細い身体。
その精気の無さに恐怖する。
「愁、しっかりしろ!頼む…愁…っ」
すぐに引っ張り出し、抱き起こして膝の上に小さな頭を乗せる。
「……しゅ…う…?」
青白い肌、痩けた頬、目の下の隈、疲れた唇、あまりに細い首…軽過ぎる身体。
死んでしまったのかと思う程の悲壮な姿に嗚咽が込み上げそうになる。
うっすらと開いた瞳がうまく俺を捕らえられずに宙を舞った。
「愁!しっかりしろ!…愁っ!!」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
20 / 93