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欠席<side 雪城>ー3
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「お前な…今回はなんで過呼吸になったんだよ?」
椅子に座り、正面にいる若い保健医を見る。
言いたく、ない。
さっきの会話を思い出すと鳥肌が止まらない。
ギリギリと爪を立てて腕を握る。
寒気がする。
「あっ、こらお前な、何やってんだ」
「いった!?なにすーーー」
急に頭を叩かれて、なにすんだよ、と言うつもりだった。
だけど、ぐいっと強い力で引っ張られた手を見て言おうとした言葉を引っ込める。
「あ………」
「血。腕にまた爪立てたろ」
上げられた手の爪には赤い色。
ずくずくと痛む腕。
その上を這うように流れる血。
「せっかくかさぶたになってきたってのに…」
俺の手を離し、椅子から立ち上がって薬品棚へと向かう遠山。
そこからガーゼと消毒液を取り出した。
「…すみません」
「いや、いいけどよ…綺麗な肌なのにもったいねぇよ」
なんか申し訳なくて謝る。
俺は編入してから
何度か過呼吸を起こしている。
原因はてんでバラバラだけど、一応わかってる。
その度に遠山には、お世話になっていて、この前も副会長と朝会った時過呼吸で倒れてたところを助けてくれた。
ここ最近、過呼吸が酷くて前よりも体力が無くなってるせいか自分で対処できる確率が低くなっていた。
「お前さ、カウンセリング受けたら」
「へ?カウンセリング、ですか?」
カウンセリング。
テレビ番組とかで何回か聞く言葉だ。
「そ。お前の場合、運動したから過呼吸になるとかじゃねぇんだろ?」
「………」
遠山は椅子に座り、消毒液の蓋を取る。
つーんとした独特の匂いが広がる。
「カウンセリング、って誰にしてもらうんですか」
「あぁ、それは俺の知人がやってる病院あんだけど、そこに行け。タダで見てやるって」
「……考えます」
遠山に聞いてもらうならともかく、知らない人間に俺の話を聞いてもらうなんて、考えただけで気が引けた。
言いたくない、誰にも。
俺の心に閉じ込めておけば、何も起こらない。
誰も、何も言わない。
だから、俺は誰にも言うつもりはない。
「考えます、って…絶対行かないだろ」
はぁ、とため息をついてから俺の腕に消毒液を染み込ませたガーゼを当てる。
痛みに慣れているのか、あまり痛くなかった。
「今日はもう帰るか?」
「はい」
新しいガーゼで腕を覆い、その上に包帯を巻く。
まるで重傷者みたいだ。
「じゃあ、お前の担任に言っとくから」
「ありがとうございます」
礼を言って椅子を立つ。
「にしても今日は欠席やら早退やらが多いなぁ」
机の書類を見て遠山がぼやく。
おそらく今日の分の欠席者と早退者の書類だろう。
「副会長も休みなんだよな〜、あいつ、今まで休んでなかったのに。んでもってこの前とか、遅刻してるの初めて見たわ」
はははっと軽い声。
え?
「あいつ、休みなんですか?」
「あぁ、そうみたいだな。風邪らしい」
書類を見て確認しながら喋る遠山。
休み……?
じゃあ、今朝着信がなかったのって……。
体調崩してたからなのか……?
「……んだよそれ…」
「ん?」
俺がボソッと言った言葉が気になったのか、椅子を回転させて首をかしげた遠山に、なんでもないと告げ、俺は教室に荷物を取りに行った。
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