アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
-
冬の夕日が美術室の窓から差し込んで、部屋の中が朱く染まる。
目の前には、だいぶ前に出来上がっているのに絵具を塗り重ねているキャンバス。
そこへまた、筆を撫でつける。
同じような色を、同じ場所へ。
この絵が完成してしまったら、俺がここに居る理由が無くなってしまうから。
「悪い、待たせた。」
突然開いたドアからそんな声が聞こえて、キャンバスから視線を上げる。
そこに居たのは、他の部員たちが帰ってしまった後も俺がここに残る理由。
「待ってないよ、これ描いてたから。」
いつも通り口からでまかせを言うと、ドアから覗きこんでいる顔がにっこりと笑って。
一緒に帰ろうって、そう言ってくれた。
校門から出て、土手沿いの道を2人で歩く。
あえて距離を取って並んでいるのに、俺達の後ろに伸びる影は身を寄せ合うように長く伸びていて。
まるで恋人同士のようなそれは、俺の願望を映し出しているみたいで。
隣を歩くこの幼なじみに気付かれない様に、そっと後ろを振り返ってその様子を確認してしまう。
「ずいぶん熱心に描いてんのな、あの絵。」
「……まーな。」
相変らずバカだな……こいつ。
毎日毎日、お前の部活が終わるまで待ってる口実だよ。
まあ、気付かれたくなんか無いけど。
「あー、腹減ったー!」
「腹減ったって……お前、部活の前にも何か食ってただろ?」
「えー、そうだけど。でも腹減ったよ。」
隣で今日の晩メシ何かなーなんてのんびりとした事を言っている声は、10センチ上から降ってくる。
中学に入学した頃は同じくらいだった身長なのに、この2年間であっという間につけられた差。
そして、もうすぐ受験生になる俺達は来年の春にはきっと別々の高校に進んで、別々の道を歩き始める。
「バカだからなぁ……、お前。」
「はぁ!?何だよ、いきなり。」
部活にばっかり一生懸命なコイツの定期テストはかなり悲惨な事になっていて。
普通より少しだけ勉強のできる俺とは、どうやら志望校が重なりそうにない。
うちの親は優しいけど常識のある人間だから、ランクをがっつり下げた高校へなんて進学させてくれそうにないし。
生まれた時から14才まで続いた腐れ縁は、どうやらあと1年で終わるみたいだ。
幼稚園、小学校、中学校。
いつでも隣に居られたのに。
こいつがアホなばっかりに。
「春樹ー?」
立ち止まってしまうと、数歩進んだ先から振り返って俺の名前を呼ぶ声。
逆光になってしまってよく見えない表情。
それが眩しくて、地面に伸びた影を見つめる。
「お前さ、高校どこ行くつもり?」
今まで聞けずにいた事を口に出してみる。
別れる準備は……、諦める決意は。
早めにした方が良いだろうって、そう思うから。
「春樹と同じ高校にするつもりだけど?」
返された言葉は、ものすごく明るくて。
あまりにも当然のようにそう言うから笑えて……そして泣きそうになってしまう。
「……やっぱ、お前バカだわ。」
「俺は、短期集中型だから。追い付いてみせるよ。」
「自信ありげじゃん。」
「まーな。……だからさ、高校入っても一緒に帰ろう。」
見つめたままの影は、じっと動かない。
まるで俺が近づいて隣に並ぶのを待っている様に。
「それは受かってから言えよ。」
「うるせー。」
嬉しすぎる言葉を貰って、俺の声は震えていたかもしれない。
俯いた顔からは涙が一滴だけ落ちて。
それを誤魔化す為に、目の前の影を踏んで走り出す。
「影踏んだ!お前が鬼な!」
「はー!?なんだよいきなり!」
俺の後ろでそう言い返して、あいつも走り出す。
きっと、すぐに追いつかれてしまうだろうけど。
<end>
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 1