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紫ノ二又。
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紫のニット帽。
逆三角形型に、三つの缶バッチがついていて、下一つが黒くて、上二つが白かった。
俺の元居た世界で見たことのあるような帽子。
まぁ、それはいいとして。
「猫耳」
そう、猫耳だ。
ニット帽から飛び出ている。
右耳は白で、左耳が黒い。
髪の色は茶色っぽくって、見た感じ三毛猫っぽい。
大きな猫目は金色(こんじき)で、左頬にはヒゲのようにも見える隈取のようなものがついていた。
着物は短くて、帽子と同じ、赤紫色。
短い裾のさきには、黒い短めのズボンのようなものをはいている。
両手足には長い緩いバンドのようなもの・・・レッグウォーマーっていうの?
あれがついていて、ヒョウ柄みたいな柄だった。
いやお前三毛だろ。
そして何より目を引くのが、その尻尾。
長い尻尾が生えている。
三毛の尻尾。
そしてそれが根元から二つ、生えていた。
「・・・リアル猫又」
猫又。
猫の化け物。
・・・それくらいしか知らないけど。
齢をとったら成るとかあったなそういえば。
見た感じ、こいつ男だし。
三毛猫のオスっていうのはとてもレアだ。
それが齢を重ねて・・・まぁ妖怪変化になるってことも、あるっちゃあるかもしれない。
とにかく。
俺の目の前には、そんな妖怪の代名詞みたいな奴がいるのだ。
しかも俺を食べるつもりで。
とりあえず紅葉の後ろに隠れた。
紅葉は抜き身の刀を煌めかせ(きらめかせ)、臨戦態勢だ。
紅葉が強いのは知っているけど、こいつもなかなかの強者(つわもの)だ。
肌で感じる。
殺気なのか妖気なのか霊気なのか・・・。
何か、得体の知れないモノであることは分かった。
「・・・そいつ、霊帯だろ。感心しねえなァ、独り占めなんて、なァ」
「・・・独り占めなんて低俗な真似するわけねえだろ。俺を誰だと思っている」
り、リアルでそのセリフ聞くことになるとは思ってなかったよ・・・。
「ホントにその台詞(せりふ)言うやつっているんだな」
まさかの猫又と同調していた。
「俺には必要ねえよ、霊力の泉なんてもんは」
「ふ~ん?じゃあ俺によこせよ。大事に使ってやる」
「猫ってのはやっぱり脳ミソちっせえな」
「あ"ぁ?」
「こいつは弟子だからな。ここでお前にやったら、俺の評価が落ちる」
「つか、ソレ、飼ってんじゃねえんだな」
猫に『飼ってる』とか言われた・・・。
「愛玩用に何かを飼うのは、それこそ人間だけだろ」
「いや?分かんねえぞ。俺の知ってる奴は昔人間を愛玩動物として飼ってたらしいし」
「いい趣味の友達だな。類は友を呼ぶもんだ」
「そうでもねえよ。芸を仕込んだりして飼いならしてたんだが、結局言うこと聞かなかったから殺したらしいし」
その言葉に俺は背筋が凍る思いだった。
「何でも、客に給仕させながら、そいつらに媚び売ってご奉仕させようとしてたらしいがな。上手くいかなかった、ってわけだ」
ヤバいな。
やっぱ妖怪なんだ。
ポンポンと進む二人の会話に俺は口を挟めない。
軽口の応酬。
「嬲り(なぶり)殺したそうだ。もっと綺麗にできないのかね」
「低俗だな。お前とそっくりだ」
「俺はそんなヘマしねえよ。そもそも絶対服従にさせるし。まぁ愛玩動物に興味は無いんだけどな」
俺が興味があるのは、食だけだ。
低く、唸る(うなる)ような声に、いよいよ死すら覚悟した。
「まぁ待てよ。こいつは霊帯でも不完全だしな。こいつを今食べても消化不良を起こすぞ」
「おい、失礼だぞ」
「ツッコむとこそこかよ」
猫にツッコみにツッコまれた。
「何でもいいんだよ・・・暇つぶしがしたいだけだ。退屈は猫をも殺すからな」
「そうか。けどな、退屈は狐だって殺すんだ。こいつは俺の弟子で、俺の暇つぶしの相手だ」
「・・・」
ひどくねえか。
「だから、お前にはやれない。肉片一片でも」
「・・・じゃあ奪うまでだ」
再び火花が散る。
静かに、痛いほどの殺気が満ち満ちていた。
・・・イケメン同士が睨み合うなよ・・・。
そういえば、この猫又は、この前の二種類の内の前者なんだろうか。
姿を変えられる、そんな。
「・・・握手してくれ」
「・・・は?」
「・・・え?」
「・・・うん?」
俺含めた三人に一瞬にして疑問符が浮かび上がった。
浮かび上がらせたのは俺なんだが。
「・・・あくしゅ」
「・・・いやいや」
「・・・お前なぁ・・・」
「・・・いやだって!!レアじゃん!!オスの三毛猫、の化け猫!!!!」
「叫ぶな。お前のそういうところは未だに理解できない」
「・・・おい、狐。コイツ大丈夫か」
「大丈夫だと信じたかったんだが」
「・・・おい」
大きく、思いっ切り、猫又は溜息をついた。
人生で一番デカかった溜息だと思う。
「・・・なんか、阿呆(あほう)らしくなってきた。もういいわ。俺、帰る」
「・・・帰る所あんのか」
「何だコイツ失礼だぞ」
「猫だから大丈夫だ、宵。路地裏とかで野良猫よろしく寝てるって」
「・・・気に食わねえな」
「一々険悪なんだよお前ら。仲良くできねえのか。紅葉も。猫又・・・尾咲だっけ?お前も」
少し、猫又、もとい尾咲は黙っていたが口を開いた。
「・・・阿呆だな、お前は。それで死んでも知らんぞ」
「殺そうとしてたやつが何を言うか」
「それもそうだな」
カカ。
尾咲はそう笑うと、背を向けて手をひらひら振って歩き出した。
それを見て、俺は無意識に走り出していた。
その揺れる手を握って。
信じられない、というような表情の尾咲の金眼と視線が交わった。
「・・・握手」
「・・・阿呆」
振り払うように歩き出した尾咲に、俺は伝える。
「・・・家がないなら紅葉の家にでも来いよ。俺がちょっとくらいなら面倒見てやる」
「愛玩動物には興味ねえんだよ。それとも飼われたいのか?」
「知り合いには優しくしておくもんだ」
「・・・阿呆」
尾を波打たせて、尾咲は高く飛びあがった。
そしてそのまま屋根の上を走って姿を消した。
忍者みたいだ。
忍猫?
・・・そんなんいたなそういえば。
「・・・家主に無断で変な話すんな、宵」
「なんだ。俺の師匠は器の小せえ男なんだな」
「・・・宵」
「・・・大丈夫だよ、紅葉。アイツはそんなに悪い奴じゃない」
俺の特技なのかもな。
人の奥底の善に気付くのは。
「・・・飯も食えねえ特技だな」
だが悪くない。
その言葉に俺は笑った。
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