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自縄ト自縛。
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「お前、あそこに住んでんのかィ」
「あそこって・・・ああ、紅葉の?」
「紅葉って名は、お前が付けたのかィ?」
「うん、まぁ。名無しだって言うから。その時紅葉が綺麗だったからさ。アイツ自身、色々紅葉出す演出するしな。今思えばいい名前だな!」
「へえ、そうかィ」
猫は興味があるのかないのか分からない反応をした。
「けど、な。あまり安易に名前を付けるもんじゃねえぜ」
「へ?」
何だ、知らねえのか。
猫はトテトテ歩きながら続けた。
「名前は『こっち』ではその意味が重い」
『こっち』?
あれ、この猫俺が人間って知ってたっけ?
あの猫又青年にもバレてたし。
そんなにバレバレなんだろうか。
「名は存在を縛る。この世に留める鎖であり、自分のものにする、意のままにする鎖」
「意のままに・・・?」
「だから俺達は本名を持たない、或いは明かさない。狐野郎もそうだ。色んな名前で呼ばれてるだろ」
「確かに・・・」
「けどな、お前は名前を付けた。鎖で縛った」
「縛るとか、よく分かんないんだけど」
「使役する、奴隷にする。そんな感じで良いだろう」
「使役・・・」
あんまり主従って感じではないんだけどな。
確かに師弟関係ではあるけど、尊敬とか敬愛とかそういうのよく分からん状態。
紅葉もなんで俺に付き合ってんのかイマイチ不明だし。
何か得があるんだろうか。
「そうだな」
「けど、俺の名前も紅葉に付けてもらったけど?」
「・・・カカ、そりゃ傑作だ!互いに縛る鎖ってか!!」
猫はいきなり笑い出した。
気が付けば、猫の気楽さというか、話の軽さにこっちもタメ口になっているが気にしないことにした。
礼儀は大切だとは思うけど、無理に堅苦しくするのは好きではない。
相手が嫌がるそぶりを見せないからこのまま続行とする。
「そういえば、お前の名前はなんだ」
「・・・俺は宵。宵闇の宵。名付け親は紅葉。妖狐で紅葉(くれは)の紅葉だ」
「宵、か。まぁ良い名じゃないか。俺の名は斑(まだら)。猫又だ」
「そっか、いい名前だな!」
「・・・まぁ、な」
ん?
斑・・・?あれ、どっかで・・・。
その時。
「着いたぞ、宵」
「え?」
猫が示す先には確かに『甘味処 飴屋 雨堂』と書かれていた。
「あめどう?飴屋だから?」
「そんなところだろ。さ、入るぞ・・・ああ、そうか」
猫はダッと俺の腕の方に上がってきた。
飛び掛かるという方がいいかもしれない。
正直、死を感じた。
「さ、これでいいだろ」
しかし猫、もとい斑は俺の腕に体を擦り付けてサッサと店の中へ入って行った。
「?」
「何してんだよ。あ~、それはアレだ、お前の『正体』隠し」
「・・・あ、そうか」
前に紅葉にやってもらったみたいに、ってことか。
・・・ほら、妖怪は妖力で相手を判断するっていう。
見た目が猫なだけに、どう見てもマーキングって感じ。
俺がちゃんと真っ当な人間だった時の友達の家の猫が、遊びに行くたびにやってきてたわ。
元気かな、ムラサメ(猫の名前)。
店内に入って行くと、中は和風な茶屋って感じ。
「いらっしゃいませ、開店祝いに飴を半値で売っております」
店番は可愛らしい女の子だった。
人間と大差ない。
着物にフリルエプロンで、どっかの女中喫茶みたいな。
違いといえば頭に生えた猫なのか狐なのか、何かしらの獣耳くらい。
リアル女中喫茶じゃねえか。
「わあ、猫ちゃんだぁ!可愛い」
「・・・にゃあむ」
「・・・」
斑のやる気のない声に苦笑しながら
「えーっと、飴下さい」
そういうと、女中さん(と呼ぶことにした)はニッコリ微笑んで
「はい、どうぞ!飴菓子です」
「ありがとうございます」
二人分の飴菓子を受け取ると、女中さんはまた斑に構い始めた。
「斑ァ?」
「あ~、外で待っとけすぐ行く」
「・・・はいよ」
ため息をついて、俺は飴屋の外に出た。
飴屋の脇に避けて、俺は斑の戻ってくるのを待つことにした。
っていうか猫って甘いモノ大丈夫なんだろうか。
こう、健康状態的に。
やっぱり妖怪だから話が別なんだろうか。
それにしても女性には弱いんだな。
「ったく、猫もやっぱりそうなのかねえ。紅葉も遅いし・・・何してんだあいつ」
ふぅっと、息を吐いてそのまましゃがみ込む。
せわしない妖界での生活におけるほんの僅かな休息のひと時・・・。
と、その時だった。
ビシャアッ!!
「!?」
ポタポタと、髪や服から水が滴り落ちる。
水・・・?
「ごめんなさいねえええええ!!!大丈夫だった?!?!!」
向かいの方から、水を放ったらしいおばさんが顔を出して必死に安否を確認していた。
ちなみにこのおばさんも異形の見た目をしていたけど。
パーマがかった髪の毛をしてて、鬼っぽかった。
打ち水か・・・?
まぁ、事故だったらしい。
「だ、大丈夫ですよ・・・」
ビックリはしたけど。
申し訳なさそうに、おばさんは頭を下げ家の中へ入って行った。
あとで乾かさないと・・・。
俺がそう呟いた時だった。
「・・・あ"?コイツ・・・」
「・・・え?」
俯いた(うつむいた)俺の視界に入った足。
足といっていいのか・・・毛むくじゃらの多分、足。
「コイツ、妖怪じゃあ無いナァ」
「しかも莫迦(ばか)みてえに力持ってやがる・・・」
「ああ、コイツァ、めっけもんだあぁ・・・」
「な、なに・・・」
ガラガラで悪意に満ちた声に顔を上げれば、そこにいたのは
「ヒッ・・・」
毛むくじゃらの、獣、じみた人。
否。
人、じみた獣。
「旨そうな匂いだなァ、おい」
じりじりと、追い詰められていく。
このままじゃ・・・く、喰われる・・・?
「さあ、こっち来いよ・・・楽しもうぜ?」
「ッ・・・!」
手が、俺に・・・
「にゃあに、してんだお前ら・・・俺の連れに」
「!?」
「!?」
「!?」
「!!」
ペロペロと、顔を洗う動作をして、その猫はこっちを見据えた。
「・・・斑」
「あ~ぶないよ?猫ちゃん」
「ったく、お前は何かしら問題を持ってくんな」
そういうと、斑はフワリフワリと二つの尻尾を波打たせた。
「これだから阿呆は嫌いなんだ」
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