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木漏れ日の涙 ハイセ×有馬
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「……いないなぁ…──」
木漏れ日みたいだ。
会うたびに、僕はそう思った。
CCG本部の中を、彼を探して歩き回る。
雰囲気も、性格も、なにもかも、木漏れ日とは全然違うのに。
ああ、やっぱり似ていると。
いつも、どこか確信的にそう思った。
有馬さん。
彼は、木漏れ日みたいな人だ。
彼の近くはとても安心するし、何もしていないとうっかり眠ってしまいそうなほど安らかだ。
CCG本部の中を出て、ベンチのある広場へと足を踏み出す。
そんな木漏れ日は、よく泣いていた。
ただ静かに。
ただ淡々と。
五月の梅雨のように、シンシンと泣いていた。
「…あ、いた。有馬、さ…ん……」
やっと見つけた有馬さんは、一人ベンチに座り、何をするでもなくただ空を見上げていた。
あ、泣いてる。
また、そう思う。
どこをどうみても涙なんて出ていないのに。
ただ、無表情に少し疲れた様子で、そこにはない何かを見つめるように空を見る彼は、やはり泣いているように見える。
彼の抱えているものは、僕には計り知れない。
尊敬、憧れ、期待、嫉妬、恨み、責任のような感情。
喰種の、人間の、敵の、味方の、部下の、その命も。
そして、有馬さんの心の中にある、有馬さんが有馬さんである理由。
きっと、それ以外にも沢山、僕の知らないところで抱えているのだと思う。
それでも、有馬さんは弱音を吐かない。
いつも、先輩として、CCGの死神として、凛と立ち続けている。
だから、よくこうやって泣くのだろう。
はたから見れば、ただ座っているだけだとしても。
「……有馬さん!!」
僕には分かる。
「……ハイセか。」
僕だけには分かる。
この歪んだ世界の一番の被害者は、有馬さんだ。
「また僕のおすすめですけど、本を持ってきました。」
「すまないな、わざわざ。」
崩れてしまいそうなほど脆い彼を、少しでいいから支えたい。
例え、不完全な存在でも。
「…白秋、か。」
「はい。特に、彼アイヌって詩はおすすめです。」
記憶がなくても。
人間じゃなくても。
喰種でも。
「…彼アイヌ、眉毛かがやき、 白き髯胸にかき垂り……」
「あ、もうご存知でしたか。僕、なんだかこの詩がよく浮かぶんです。」
僕の全てを教えます。
だから。
「……今度、有馬さんのおすすめの本が読みたいです。」
「…大して面白いものはないぞ。」
「いいんです。」
だからいつか、貴方のことが知りたい。
僕は、待ちます。
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