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過去は還らない15
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どこか遠くで、雨を踏みつける音を聞いた。
きっと、突然の雨で走ってるんだろう。
荒い息遣いと、傘の落ちる音。
理由もなしに、昔のことを思い出した。
まだ、喰種について何も知らなかったあの頃。
純粋に、ただ純粋に月山さんに惹かれていたあの頃。
ずっと時間が止まればいいとすら思えたあの頃。
ずいぶんと遠くまで来ちゃったなあ。
「…は、ははっ、あはははっ…」
もう、戻りたいとすら思えなくなってしまった。
雨を踏みつける音は次第に大きくなっている。
まるで、僕に向かって来ているみたいに。
…もう誰にも、僕を見て欲しくなかった。
世界のどこにもいたくなかった。
走ろう。
そう思うより前に足は動き出して。
雨と一緒に頬を流れる熱いものを感じながら、血を吐くように一歩一歩足を踏ん張った。
「────!」
声にならない声が零れて、もう全部嫌だと思った。
「……きっ…」
どこかで聞いたことのある声がする。
また僕の頭の中かな。誰なんだろう。
「……きくっ…」
心が無意識にふわふわするような声。
懐かしい。まるで…
……?
まるで──?
月山さん、みたいな声。
「カネキくん!!!!」
…空耳なのかな。
だって彼はいるはずなくて。
「はぁ、はっ、カネキ…くん!!!!!」
雨に遮られながらもしっかりと聞こえてくるその声。
頭の中じゃない。現実なのだと実感する。
本当に?
本当に月山さんなのかな。
足を止めると、後ろから聞こえていた足音も止まった。
振り返るのが怖い。
でも、一目でいいから顔が見たい。
もう僕のことを待ってくれていなくても。
振り返る。手がどうしようもなく震える。
怖い。
会いたい。
…大好き。
雨越しのその向こうに、懐かしい青紫が見えた。
「月山、さん…?」
最後に見た時より、少しやつれたように見える。
髪もぐしゃぐしゃだ。いつも綺麗に整ってたのに。
涙で前が見えなくて、何度も何度もぬぐった。
「月山さん…」
「カネキくん!」
月山さんが走ってくる音が聞こえる。
そして、何かに包まれた。
「カネキくん……!!」
耳元で月山さんの声。
恐る恐る触れた背中は、雨のせいで冷たかった。
それでも、彼だった。
月山さん、月山さん、月山さん。
「「会い、たかった…!」」
ぎゅっと抱きしめ返すと、月山さんはさらに強く僕を抱きしめた。
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