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過去は還らない17
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『誰もいない、誰も知らないような、そんな場所に行きたいです。』
そんな僕の願いを、月山さんは叶えてくれた。
喰種ともCCGとも離れた森の中。
月山さんは、そこに森に溶け込むような家を建ててくれた。
まるで社会から遮断されたような。
僕と月山さんしかいない世界にいた。
月山さんの家にいるようなメイドも執事もいない。
僕と月山さんで、支え合うように家事をした。
2人しか住まない家だから、そんなに大変なことでもなかった。
月山さんは家の用事や食料調達でずっと家にはいられないけど、それでも週4日はここにいてくれる。
これが、現実から逃げた僕たちの答えだった。
月山さんと再開できたあの日から、もう何年も経っている。
髪の毛もずいぶん伸びたし、赫子も全く使っていない。
月山さん以外の人とも、全然会っていない。
でも、それでいい。
それがいい。
僕の世界には、月山さん以外いらない。
欲しくない。
コン、コンココン、とリズムにのったノックが聞こえて、飲んでいたコーヒーを置いて走ってドアに向かった。
急いでドアを開けると、目の前いっぱいに花が広がっていた。
「わっ…!?」
「Un happybirthday!」
花の向こう側に、優しく微笑んだ月山さんがいた。
「何でもない日おめでとう…ですか?」
花束を受け取り首をかしげると、花束ごと抱きしめられてドキッとする。
「カネキくんと共にいるというだけで何でもない日ではないが、こうした日々を送れるというだけのことが幸せなことなのだと思ってね。」
首に顔をうずめてそう言う月山さんに、疑問を抱いた。
どうしたんだろう、急に。
何かあったのだろうか。
「外で、何かあったんですか?」
返答はなかった。
その代わりに、月山さんの方がぴくりと揺れた。
「…あったんですね。」
無言のまま僕を抱きしめる腕に力を入れる月山さん。
なにか月山さんを不安にさせることがあったんだ。
しかも、多分僕のことで。
安心させようと僕も抱きしめ返すと、しばらくして何があったのか話してくれた。
「……捜査官に遭遇したんだ。薄いblond hairの、綺麗な女性の捜査官だった。…カネキくん…いや、佐々木琲世を知っている人物だった。」
今度は僕が何も言えなかった。
アキラさんだ。
何で、どうして。
どうして今更。
「カネキくんを捜しているようだったよ。SSレート喰種としてね。」
あれから何年も経っているのに?
僕はここにいたいのに。
アキラさんのことを考えると、自然と他のことも思い出す。
有馬さん、クインクスのみんな。
懐かしいあの頃の記憶。
「…カネキくんは、このままここにいたいかい?それとも、外に…」
「…僕は、」
みんなに会いたくないのかと聞かれればそうじゃない。
でも、それより大事なものがここにある。
「僕はここにいたいです。月山さんと二人で。」
それが、僕の答えだった。
「…っ!カネキくん!」
二人の世界には時間が流れない。
二人再開したあの頃から、時間は止まったまま。
止めているのは、僕らだ。
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