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うん、ダサいわ。
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「はぁ…」
教室に入ると、思わず深いため息が出る。
あぁ、つくづく女子というもんは恐ろしい。
流石にさっきの質問攻めには参ってしまった。
なんやかんやで十分程教室の前で立ち往生してしまったしなぁ……
なにが『さっきのキスの真意』だよ。
そういうのはあいつに訊けよ。
自分の口がへの字に曲がるのが分かった。
あいつはいつもそうなのだ。
散々俺をからかって飄々としてやがる。
見るとあいつは、他の奴らと楽しそうに話しながら一番前の席に座っている。
俺は黙って一番後ろの席を確保した。
しかも、一番窓際の特等席である。
日の光がサンサンと俺に降り注ぎ──うん、ムシャクシャした気持ちも治まってきた。
気持ち良くなってふぅ……と目をとじる。
「……ぁ、あのぅ……少しお時間お宜しいでしょうか……?」
しばらくして、俺の耳にそんな遠慮がちな声が飛び込んできた。
あん?と間抜けな声を漏らしながら振り向くと、「ヒィッ」というさらに間抜けな声が聞こえた。
その声を出したのであろう奴は、『こいつ、ホントに高校生か?』と思う程にチビ(あ、チビって差別用語だったけか?)な奴で──。
「……ダサ」
──とても、とてもダサい。
いやファッションセンス0の俺が言うのもなんなんだが、そいつはかなり分厚い……そう、漫画に出てくるガリ勉キャラさながらのメガネをつけており、前髪もボサボサ。
……うん、なにがあったって訊きたくなるレベルでダサいわ。
「ひぃぃぃ……! ダサくてすいませんんんん……!」
そいつは、プルプルと体を震わせながら妙なことに対して謝っている。
……なんで俺なんかに話しかけてきたんだろう。
なんだか可哀想になってきてこちらから切り出す。
「……なに、どうしたの。 もどかしいから早くしろ」
「ふぁぁぁ……!? えっと……ごめんなさい……!」
そいつ──いや、ダサメガネでいいか。
ダサメガネはかなりパニックになりながら上目遣いでこちらを見てくる。
メガネの奥の栗色の瞳が見えた。
そのパッチリとした目は、なんだか女の目のようで少しドキッとしてしまう。
──ダサメガネ、コンタクトにすればモテそうなのになぁ。
なんて、まったく関係のないことを考えてしまった。
一方ダサメガネは未だ真っ赤な顔をして口をパクパクさせている。
が、ジッと待っていると意を決したように口を開いた。
「そ、そこは……僕の席なのですが……!」
「はい?」
「ぇ……えっと……こ、黒板の前に席が張り出してあります……!!」
ダサメガネはここまで言うのがいっぱいいっぱいの様で、その後は『えっと』『だから』『あの』『あgedkaふsyz』などなど意味の分からない言葉を連発している。
──確かに、黒板の前に女子達が集まってキャーキャーしている。
「うわっ、ここお前の席だったのかよ!?
……さーせん」
……うわぁ、死にたい。
とりあえずダサメガネに謝って黒板の前に向かう。
あぁ、もう帰りたい。
そして布団に潜り込んで寝たい。
再び口はへの字になる。
「おっ、徹チャン! さっきは美味しい光景ありがとーございましたっ!!」
「……黙れクソアマ」
わざとらしく敬礼なんてしちゃってる美咲を睨み付ける。
まぁ、あいつはこんなので動じる奴ではない。
「わー、ヒドォー。 ね、松尾っち~」なんて隣の女子(こいつも『フジョシ』というやつか?)に話しかけている。
さて、気をとりなおして黒板に張ってある席順を見つめる。
この時、俺は一生懸命祈った。
『スゲェ可愛くてフジョシじゃない女と隣になれますように!!』
そして、俺の隣の奴は──。
「──桜井 遥……?」
──あぁ、ヤバイ。
これは女の名前だ、確実に。
あぁ、ついに俺もリア充になれるかもしれない。
神様アリガトウ。
……で、席の位置なんだけど。
「……………あ、あれ??」
俺の本当の席は、さっき俺が間違って座った席の“ 隣 ” だった。
って、ことはだな……この桜井 遥というのは。
「桜井君は男の子だよー? と・お・る君っ!」
「ひゃぁ……っ!!??」
思わず真っ白な灰になりそうな俺の首に、ねちっこい声と共に白くて細い腕が絡み付いた。
驚いて妙な声を発してしまい、口を押さえる。
「あれぇー、徹って首が弱かったんだっけぇ?」
俺の顔にグッと顔を近付け、いつの間にか後ろに立っていた純平はニコッと笑った。
「お……おま……っ! 朝からなんなの、マジで……!!」
純平は肩を竦める。
同時にワッと起こる女子達の歓声。
「んもー、やっぱ徹は初でイジメ甲斐あるわぁー!
あ、俺ってもしかして徹をイジる為に生まれてきたのかな!?」
……んな迷惑な人生、リセットしちまえ。
「……もうこれ以上俺に近付くな、話しかけんな」
もう質問攻めなんて嫌なんだ。
俺はムスッとした顔のまま、自分の席へ向かう。
そして、一人でひっそりと本を読んでいる隣の奴に軽く挨拶。
「──宜しく、ダサメガネ……じゃなくて桜井」
「ふぁ……っ、はい、宜しくお願いします……っ!
だ、だからカツアゲは勘弁してください……!」
……やっぱ変な奴なんだよなぁ。
ま、悪い奴じゃなさそうだしいいか。
黙って本を読む桜井の横顔を見て、俺はなんとなく優しい気持ちになれた。
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