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春の夜道で
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英と名乗ったその人は徹の兄だけあってやはり面影があり、顔を見つめると胸の辺りが騒がしくなる。
英さんは俺から事情を聞くと(親父との喧嘩の内容は伏せたが)「行く所がないならうちにくればいい」と、なんでもないような顔をして言って、俺の手を引き英さんの家へと歩き出した。
さっきからギュッと握って貰っている手からは、俺のヒョロッとした手からは感じられない頼もしさを感じる。
「……あの、徹、俺のこと……どう思ってるんでしょうか」
そんな頼もしさからだろうか。
俺は、普段だれにも見せたくない弱い顔を英さんに見せていた。
英さんは俺の質問には答えずに、手に込める力を少しだけ強くした。
こんな質問をされて、困ってしまったのだろうか。
「……ごめんなさい、変な質問しちゃって」
「嫌いじゃないと思うぞ。 ……寧ろ好きだと思う」
英さんは俺の謝罪を聞いてか聞かずか、そうボソボソと言葉を紡ぐ。
そして言い終わると、でも、と言葉を付け足す。
「徹の『好き』とお前の『好き』は違うだろうな」
「え?」
「……お前、あいつに気があるんだろ。
親父さんとの喧嘩の原因もそれか?」
なんでだ。
この人は、どうして分かってしまっているんだろう。
ついさっき、気持ちが悪いと軽蔑されてしまった俺の恋心を。
『男に興味があるなんて、なんて気持ちが悪い!!』
『お前なんて、失せてしまえ!!』
家を飛び出した際に浴びせられた暴言が甦って、またジワジワと涙が込み上げてきた。
拭う気にはなれなくて、頬を生暖かい滴が伝った。
「……気持ち悪いですよね、こんなの」
泣いているのがバレバレの鼻声で英さんに問う。
「そんなことない。 お前の正直な気持ちなんだろ、それが」
英さんの大きな手が、俺の頭を撫でた。
顔は強ばっているけれど、その手はやはり優しい。
俺は、ありがとうございます、と呟いた。
*
「……カギが掛かってる」
「……ここ、英さんの家ですよね?」
よくある一軒家の前で、英さんははぁ、とため息をついた。
そして、カギが閉まっているらしいドアの隣のインターホンを押し、開けやがれと文句を言う。
「あーら、星野君……と、部屋の掃除するって言いながらしてない根暗じゃないの」
ドアが開くと、目を釣り上げた女の人に家の中に入れられた。
……徹の家って、賑やかだなぁ……
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