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恋バナしようぜ。
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「おーい、徹」
前髪ボーボーで目付きが悪くて、見るからに根暗で姉さんのパシリ。
家での階級も低めの兄さんが部屋にいた俺に声を掛けてきたのは、もうそろそろ寝ようかなぁなんて思っていた頃だった。
俺は、目を通していたマイコレクションの中の一冊を速攻で閉じて兄さんの方を向いた。
「……なんだ?」
兄さんが話し掛けてくるなんて、よっぽどのことがない限りない為凄いレアだ。
一体どんな大事な用事なのか……
俺が身構えると、兄さんはベッドに腰かけて顔を引きつらせる。
(信じられないことに、これは兄さん精一杯の愛想笑いだ)
「……恋バナ、しないか」
「はぁ?」
俺が拍子抜けして床に肘を強打する程、その言葉は意外なものだった。
色恋など一切しなさそうな根暗が恋バナ……?
もしや兄さん、頭でも打ったか。
「……そんな顔するな、言っておくが俺の頭は正常だ」
兄さんは、鋭い切れ長の目で俺を睨む。
でも、どうして急に恋バナなんてするんだ。
俺は好きな人なんて……居るけどさ。
兄さんにも居るんだろうか。
「徹はいるんだろ、付き合ってる奴が」
俺が色々思考を巡らせていると、兄さんは単刀直入に切り出してくる。
付き合ってるやつ、と言われて真っ先に頭の中に出てきた分厚いメガネで、やはりあいつを過剰に意識してしまっていることを痛感する。
「……な……っ、バカ……っ、いねぇよ!! 誰がそんなこと言ったんだ……っ!?
あいつとは違うんだ!! 全然!! そういうのじゃないし!!」
兄さんは、ギャンギャン騒ぐ弟を見ても表情一つ変えない。
心の中がモヤモヤする。
この違和感は、どこから来ているのか──。
「なんで違うって断言できる。 あっちは付き合ってる気かもしれないだろ」
「……それは……! あり得ないから……!! あいつは俺のこと好きって言ったけど、それは友達としてってことで……!!」
俺が少し落ち着いてくると、相変わらず冷たい声が俺に振り掛かる。
「同性だからとか、そんなの関係ないだろ。 せっかく好き合ってるのにそんな弱気でどうする?
……それじゃあいつが報われない」
その言葉で、さっきから感じている違和感の正体が分かった。
「……兄さん」
「………………」
俺が話し掛けると、兄さんはやってしまったとでも言いたそうな顔でこっちを見た。
「なんで俺と遥のこと知ってるんだ? それと……あいつって誰だ?」
なんで兄さん、俺の気持ちのことにこんなに詳しいんだ。
誰かに話した覚えはない。
なぜ兄さんが遥と俺が同性なことを知っている。
なぜだ。
「……あいつはあいつだ。 お前のことはそいつから聞いた。
──いいか」
兄さんは、俺の肩を掴んだ。
そして、真剣な顔で言う。
「……自分の気持ちを伝えたくても、一歩踏み出せなくてタイミングを逃す奴だって沢山いるんだ。
お前らはそのタイミングを逃したいのか?」
……そんなこと言われても。
「……分かんないんだよ」
「なにが」
「……これって恋なのかよ。 確かにあいつとは一緒に居たいよ。 ずっとずっと。 でも、これって恋なの?」
自分の口から出てくる言葉で、やっと自分がどう思っているのか分かった。
俺、迷ってるのか。
恋愛感情と友情の狭間で。
「……ずっと一緒に居たかったり、そいつを守りたいって思ったら、それは恋だと思うぞ」
「……うん」
「……じゃ、俺行くわ」
兄さんがドアを閉めてからも、しばらく考えていた。
この『好き』はどういうものなのか──。
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