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やっぱりアホなのよ
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「……何か用か。 三十字以内で説明しろ」
アタシがニコーッと可愛らしい笑みを浮かべると、徹はいつもよりも強ばった顔をしながらガタンと音を立てて椅子に座った。
こりゃ相当動揺しちゃってるわね。
「遥チャンと喧嘩? アンタ達最近バカップル化してたのに、ご苦労なことね」
少しだけ考えて、単刀直入に訊いてみる。
最後の方が少し皮肉っぽくなってしまったが、まぁいいだろう。
コイツは皮肉なんて気にしないし、ね。
徹は、そっぽを向いてアタシの言葉に噛みついてくる。
「……俺らはカップルなんかじゃないぞ」
「あらら、傍から見れば完全にカップルだったわよ。
いっつもくっついてるし。 お弁当も一緒に食べてない? 放置されててアタシ達寂しいのよぉー?」
まったくコイツにはほとほと呆れてしまう。
「どうせウジウジしてて告白もしてないんでしょー。 遥チャン、きっと待ってるわよ」
でも、コイツがなかなか自分の気持ちを言えない質なのはウンザリする程知っている。
人間ってもんは、言葉にしないと気持ちなんて伝わらないのにね。
「……どっかの誰かさんといい、アンタといい──。 なんでアタシの周りには鈍感な奴しかいないのよ……」
嘆くように言ってから、しまったと思う。
こんなの、ただの愚痴じゃないの。
けれど、徹は聞いていなかったようだ。
「……じゃあ……じゃあ、お前は好きな奴にそんな簡単に告白出来るのか……?」
唇をギュッと噛んだ徹は、凄く妙な顔をしている。
コイツ、泣きそうになるとこんな顔するのよね……
昔と変わらぬその顔に吹き出しそうになるが、質問に答えておく。
「出来ないわね。 実際できなかったし」
「……えっ、お前、好きな奴いたの」
「黙らっしゃい」
アタシにだって悩んでた時期はあるのよ、このアホが。
いかにも意外そうな顔をした徹を、睨み付けておく。
「そいつのことは今も好き。 でもね、そいつに今気持ちを伝えても、多分アタシが後悔するだけなのよ」
こんなのただの言い訳だけど、という言葉はグッと喉の奥に封じ込めておく。
「……だからね? アホみたいに泣きべそかきたくなかったらさっさと告っちゃうのが吉よ。
意外とふとした瞬間にそのタイミングなんて去っちゃうのよ」
アタシも、ウジウジしなければよかったのにな。
自分で紡いだ言葉がいちいち心に刺さるのを感じて、どうしても笑みが引きつる。
「……兄さんにも似たようなこと言われた」
「あっちゃぁー……あの冷血漢に先越されたか……」
おどけて舌を出すと、行儀が悪いぞとでも言いたげにジロジロ見られた。
「……でも、ありがとな。
それと……ゴメン。 色々、気付かないフリしてて」
それから、不意打ちの謝罪と笑顔。
一瞬素直に頭を下げる、徹のことをボーッと見る。
「……どういたしまして。
で、色々ってなによ。 ……色々って……というか、素直で怖いんですけど?」
「……色々は……色々だよ。
──まぁ、俺もアホなりに頑張るからな。 えっと……ドウジンシ? それのネタにでもしてくれ」
そう言って伸びをする、コイツの体はいつの間にかアタシよりもずっと大きくなっていた。
「フラれたら慰めてあげるわよ。 ほら、またいつかみたいに、いいこいいこでもしてあげようか?」
フラれても、アンタには慰めてくれる人が周りに沢山居るんだろうけどね。
まぁ……
「フラれるなんて思ってないけどね?」
このアホが。
くそぉ、大好きだったのに。
「……徹チャンと遥チャン、いいCPだもんねー!」
たまには、アタシ達の方も振り向いてよね。
アンタ達の裏でシクシク泣いてるんだから。
……そんなのただの夢物語なわけだけど。
アタシは、必死で笑顔を作った。
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