アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
言えないまま
-
「結婚おめでとう」
「ん、サンキュー。」
男は必死で作り笑をする。
そんな作り笑顔に頬を緩めて返事をする。
(ああ……もう本当に終わりだな)
男はいつも以上に笑っている友人___いや、違う。
______好き『だった』友人の顔をみて
そんな事を思う。
「タキシード案外似合うな」
「だろ? 自分でもビックリだけどな〜」
嬉しそうに何度も姿見に自分の身体を映す友人に、心底腹が立つ。
俺の気も知らないで結婚なんてしやがって。
このままいっそのこと、キスして、壊れるほど抱いてしまおうか。
(そんなこと、できもしないのにな)
できていたら、もっと早くやっていた。
_________けど、できなかった。
そう。
この男は自分の事を友人と思ってくれている相手との関係を壊せるほどの度胸を持ち合わせてはいなかったのだ。
(臆病者だな、俺って)
「つーか、さ。 ……マジでありがとう。 俺と……その、あいつの仲取り持ってくれて。
お前いなかったら結婚まで行かなかったと思う」
友人は男に向かって、背筋を正して深々とお辞儀をした。
義理堅く、正義感の強い友人らしい誠意の尽くし方に男はその感情を捨てきれないでいた。
「頭上げろって。結婚できたのはお前自身が頑張ったからだろ? 食事断られても何度だって誘って、デートまでこぎ着けてさ。 ……本当に好き、なんだなって思ったよ。
だから少しアドバイスしただけだから、礼なんていらねえよ」
それは男には無い情熱だった。
男は羨ましかったのだ。
そこまで手に入れたいと思えるのかと。
(俺の恋とはかけ離れてる)
努力だってしない。
見てほしいとも思わない。
そのくせ……醜い嫉妬ばかりが増えていく。
(だから俺はなれなかったんだ)
友人の恋人に。
本気でぶつからなかった者には何も得るものはない。
ただ指を咥えて、今起こる現象を真摯に受け止めることしか選択肢は残されていないのだ。
「そろそろあいつの花嫁姿でも拝みに行くかな〜」
「可愛いあの子の花嫁姿見て泣くなよ。」
「バーカ。 誰が泣くかよ」
(……ポケットの中身確認してんのバレバレなんだが)
男はそんな友人の姿を微笑ましく見つめた。
(今日が最後だ。 ……もう、忘れよう)
こんな醜い感情も、何もかも忘れて。
「俺たち、親友……だよな? 結婚しても」
「何言ってんだよ。 今も昔も親友、だろ?」
世界で一番、大好きな友人は男に振り返ってそう、言った。
END
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 1