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クロ猫観察日記(ねこま)
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「うわー、こんなちっさい子猫を捨てるやつの気持ちわかんねー」
「まだ生後まもないよな、これ」
「……」
校門の前。クロは部長会とか言ってたから虎に連れてかれるがままに2年組で帰ることに。そこにあったものは粗末な段ボールに新聞紙とタオルが詰められていて。そしてその中にいたのは本当に手のひらで包み込めるようなサイズの黒猫だった。
*
「俺んち、もう犬いるから猫飼えそうにねえ…」
「…うちマンションだからまずペット禁止」
「うちもだ」
「でも部室に居させるわけにも行かねえよな…これはどこかに隠して飼うしか……いざとなったらお前クロさんに交渉してくれよ!」
「えー…何でおれ…」
「俺の頼みより研磨の頼みの方が聞いてくれそうだからに決まってんだろ!!福永もそう思うよな!?」
「…最終兵器研磨」
「福永まで……」
そりゃ猫がかわいそうなのはわかるけど。このままは寒いじゃないかと虎がジャージやらタオルやらでその猫をぐるぐる巻にして、3人でその段ボールを抱えたまま一旦部室に戻って早1時間。
「あれ。お前ら先帰ったんじゃなかったのかよ。部室、鍵閉めんぞー」
「うぇっ。ク、ク、ク、クロさん!お疲れ様っす!」
「福永、何抱えてんだ?」
にゃー
「猫?」
虎の考えも虚しく早々に見つかってしまった。
*
「うお、かわいー!」
「まだ子猫じゃないスか!捨てた奴ありえないっス!!」
翌日。夜久さんやリエーフたちもその黒猫の存在を知ることに。昨日はクロに見つかった時点でどうなるかなって思ったんだけど
『クロさん!こいつこの寒空の下行く場所なくて震えてたんです!!飼い主見つかるまででいいんで部室で飼えませんか!?』
『部室!?俺一人じゃどうこう言えねえだろ。先生に見つかったら何言われるかわかんねえぞ!』
『そこをなんとか!!』
『なんとか、って言われても』
『ごめんね、うちはこんな小さくていたいけな猫も住まわせてあげられなくて…部長がうるさいから』
『おい研磨』
よし食いついた
『これが烏野だったらあの主将さんが学校にもうまく取り繕ってくれて、他の部員の皆にも協力してくれたと思うけどうちの部長の権力じゃ無理みたいだから』
『……っ』
『直接的な協力は無理だけど何かいい方法ないか翔陽にメールしてみよっかな。虎もあのお友達?の人に聞いてみたらどうかな。もしかしたら主将さんにも聞いてくれるかもだし…
『あーっ!くそ!!飼い主見つかるまでだぞ!!何かあったら2年組でちゃんと責任とること!!!!』
『まじすかクロさん!!』
『ありがとうございます』
……勝った
*
おれたちの意向を察してかその猫はこちらが授業や部活で居ないときや夜間は虎のロッカーで飼われることになった。猫だから昼間はどっか行ったりもしてるみたいだけど、ロッカーを自分の家と認識したのか出かけてもちゃんと戻ってくる子だった。
昼休み。弁当のおかずで猫が食べても大丈夫そうなものがないか、をちゃんと調べて(あの勉強嫌いの虎が)弁当片手に部室に来た。
「福永今日おかずなに?」
「俺きょうはサンドイッチだよ。猫が食べても大丈夫なのかな」
「研磨は?」
「さんま。おれそんなお腹すいてないから全部あげちゃってもいいけど」
「おい。お前ら本当に猫の餌 調べたのか。こんな子猫の時からサンドイッチだー焼き魚だー食えるわけねえだろ。そんで研磨はさんまがいらないなら俺によこしなさい」
「鉄朗、最後の一言は余計だぞ」
子猫用と書かれた猫缶と、牛乳を持ったクロと夜久さんが部室の入口の所から、こちらに声をかけてきた。
「そう言えばこいつ、名前ないの?ねこちゃんとかにゃんこって呼んでるけど」
「名前つけたら愛着わいて手放せなくなりそうじゃないすか!」
「飼い主さんにも〇〇って名前ですって伝えれば良いだろ」
「おお、そうか夜久さんナイスっす!」
やっぱり黒いからクロってのが主流ですかねーと言い出す虎。ひねりも何もないけど確かにそれが一番わかりやすいかもしれない。
「クロ~」
にゃあ
「クロが自分の名前だと認識したようだな」
「うおー!これまた愛着わくなぁ!!クロー!クロー!」
「何か俺の名前を山本に連呼されてるみたいで複雑」
「大丈夫だよクロよりこっちのクロの方がみんなに人気あるから」
「研磨それはフォローにもなんにもなってねえからな?」
*
「傘忘れた…」
天気予報は雨なんて言ってなかったのに。たまたま折畳み傘を別の荷物に入れてきてしまった時に限ってこれである。部室に置き傘があったはずだ、とできるだけ屋根のある道を選びながら部室へと急いだ。
「傘、傘…あ、あった」
適当に近くにあったビニール傘に手を伸ばす。今日はこれを借りて帰ろう、と思いそのまま出口の方へと向かっていくと
にゃあ
「クロ?」
雨の中 外に出ていたのか全身がびっしょりと濡れたクロがこちらに向かってよたよた歩いてきた。よく見るとぷるぷる震えてるし、なんだか弱っている気がする。
「え、クロどうしたの?大丈夫…?」
身体を撫でるとにゃあ、と鳴くものの拾って来たばかりの頃よりも弱々しい姿で。何かあったかくできるもの…とスポーツタオルでクロの身体をくるんで次に何をするべきなのかを考えた。
でもおれ元々動物そんなに得意じゃないし、こういう時って何すればいいかわかんない…
「誰かわかりそうな人…」
3年生は今日は受験対策授業って言ってたし虎や福永もこの天気ならもう既に帰ってしまっているかもしれない。どうしよう。
「傘~傘…あ、研磨さんお疲れ様でっす!」
「リ、リエーフ」
「研磨さんこんな入口で固まって何してんスか?え、これクロさんめっちゃ弱ってるじゃないスか!」
おれの手の中でどんどん弱々しくなっているクロを見て、驚いた顔を見せるリエーフ。おれとリエーフとじゃ猫の知識なんてものないに等しいし誰か他に頼れそうな人を呼ぼうと連絡をいれようとしていると
「研磨さん!動物病院行きましょう!俺この辺のとこなら場所把握してるので!」
「え、動物病院てこいつノラ…」
「クロさん死んじゃってもいいんですか!?」
あまりの気迫に正直驚いてしまって。気付くと雨の中クロを抱えたリエーフに手を引かれて動物病院へと走り出していた。
*
「早くに温めてあげたから大事はないですよ。猫ちゃんも大事だけど、貴方達も全身びしょ濡れで風邪ひかないようにね」
病院につくなり、急患ですせんせー!なんてリエーフが騒ぐもんだから恥ずかしいのなんのって。どうやらこいつノラ猫を病院に連れ込んだのは今日が初めてではないようでほかの病院に来ていた人たちや看護師さんたちがまたこの子が世話をやいて、といっている声が聞こえてきた。
待合室。流石にずぶ濡れ過ぎてこのままじゃ帰れないと感じたおれは授業が終わったであろう3年生組に連絡を入れた。
「クロさん無事で良かったっス!」
「おれらが全然無事じゃないけどね」
「可愛いクロさんのためじゃないっスか!」
「風邪ひいたらリエーフのせいだか…はっくしゅ!!」
「ほらお前らも風邪引く前に服かえろよー。わざわざ届けに来てやったんだから」
バサッと頭の上からタオルをかけられ着替えの一式を夜久さんから放り投げられる。そんなおれたちの様子を見てクロ(人間の方ね)がくっくっと笑いを噛み殺している。
「リエーフは兎も角研磨もびしょ濡れになるくらい必死になるなんて“クロ”は愛されてんなぁ~?」
「おれが何も言う前に勝手にリエーフに連れてこられただけだし」
「研磨さんが最初に弱ってるクロさんタオルでくるんだりしてたじゃないスか!あんなに動揺してる研磨さん初めて見
「リエーフもクロも黙って」
バレーにもそんだけ必死になってほしいなー、なんてわざとらしく言うクロのそういうとこ嫌いだ。
「大事なくて良かったな」
「うん、ありがと夜久さん」
「夜久にだけ素直!!」
「残念だったな鉄朗、これが人望の差ってやつだ」
*
あの雨の日から一週間。すっかりクロの元気も戻って、そのタイミングで犬岡の友達の家でクロを引き取れる、という申し出を受けた。
「これでネコちゃんも山本の汚いロッカーから逃れることができるんだな」
「ちょ、クロさんひでぇっ!オレこれでもだいぶ綺麗に片付けてこいつ住ませてたんスよ!!」
「友達もうすぐ来るって言ってたんですけどクロどこ行っちゃいましたかね?」
確かにロッカーの中にクロの姿はない。もしかしてまたどこかへ飛び出して行ってしまったのではないのだろうか、と辺りを皆で見渡すと
にゃあ
何かを銜えたクロがおれのもとへと駆け寄ってきた。
「え、なに クロ、これ、うわっ」
にゃーにゃー
ぽてん、とおれの前に置かれたのは鼠の死骸。なにこれグロイ。
「お?おー?」
次に向かったのはリエーフのもと。リエーフのとこにも同じように何かの死骸をぽい、と置いていた。
「え!ちょっ、研磨さん!クロさんが死体くれたんすけど!」
「うんおれのとこにも持ってきた、気持ち悪い」
「御礼のつもりなんじゃねーの」
「「御礼?」」
「あー!おまえらがこないだ助けてくれたからクロなりに御礼したいんじゃねって!もうこんな獲物まで狩れるんだぜって親猫に見せるっつー話も聞いたことあるし」
お や ね こ
「じゃあ俺このクロさんのお父さんで研磨さんお母さんっスね!!やったー!パパ、バレー頑張るよー!」
「いやちょっと待てなにナチュラルに研磨と夫婦設定しょってんだそういうのは俺を通してくれないと困ります。」
「子供の旅立ちは寂しくなるよなー」
「可愛い子には旅をさせろって言うし」
「……もうみんなうるさい」
そんなことより。目の前の鼠をどうしようか、ということを考える方が先だと思うんだけど。
クロ、飼い主さん見つかってよかったね。仲良くね。
またね。
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