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何を思ったのか、悟はスペースの隅から椅子を引き出して座り込む。
パテーションの出入り口が狭い為に、通せんぼされてしまった。
二人でいるには息苦しいほど狭いスペースなのだ。
外に出ればいいのに、何を考えているのだろう。
すっと手を伸ばした悟が額の上で括った俊明の前髪を触る。
モニターを見るのに邪魔だから、先ほど結んだのだ。
「大体、28歳でおっさんとか、お前ら28歳に失礼だよな」
「ってか、悟さんは本当はいくつなんだよ」
振り払ってよいものか分からずに、大人しく触られたままいる俊明に悟がおかしそうに笑う。
変わりに、むくむくと湧き上がってきた質問を投げかけた。
「ん? 41だよ、本当に」
自らの真っ黒な髪の毛を撫で付けながら、悟がにんまりと笑う。
若々しい精悍な顔立ちに、服の上からでもそれとわかる無駄のない筋肉で引き締まった体躯。
身のこなしは軽やかで、隙がない。
身長だって、190近くある俊明よりは低いが、180位はあるだろう。
どこぞのブランドのスーツをスマートに着こなしている。
どこをとっても俊明の知っている41歳には当てはまらない。
これまで、何度聞いても41歳と答える悟を疑りの目で見る。
この狸親父の嘘を見抜くことなどできないとはわかっていても、ただ騙されるのはどうも気に食わない。
大体、悟という名前すら、本名かどうか疑問なんだ。
「ホント、何者なんだか」
ちらりと横目で見るとばっちり目が合ってしまった。
にやりと笑う悟に、俊明は蛇に睨まれた蛙の気持ちを痛感した。
「皆さんの税金でおまんま食ってるしがない公務員さ」
「それは・・・知ってる。前に聞いた」
「じゃあ聞くなよ」
「だって、嘘くさい。似合わねえよ」
「似合わねえって言われてもなあ」
悟を相手にすると、まるで駄々を捏ねているような気分だ。
子供っぽい自分の言葉に、悟が呆れたように笑うのが悔しい。
「国民の奴隷だぜ? 考えただけでゾクゾクするだろ」
にたり、と笑った悟の顔が、目の前に迫っていた。
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