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始発電車に乗り込むため、白み始めた早朝の空を見上げながら窓を施錠した。
もちろん、早起きをしたわけではなく、昨夜から寝てないだけだ。
母さんにお灸を据えられて大人しくなったチチオヤだが、いつまた暴発するか分からない。
自室に鍵はかけられるものの、本気モードのオカマの前では心許無いしょぼさだ。
現に高校時代まで、目を覚ますと夜中に忍び込んだチチオヤの腕の中なんて事が日常茶飯事だった。
それと分かって熟睡できるはずもない。
暫く仕事の締め切りもないし、アパートに帰ったら寝ればいい。
昼夜逆転はいつもの事だ。
トートバックを肩に掛けると、卒業アルバムの重量でずっしりと食い込む。
コレを持って移動することに既にへこたれそうだ。
静まり返った家の中を足音を忍ばせて歩く。
そっと玄関を開けると、ポーチでジャージ姿の百合がヤンキー座りでタバコを咥えていた。
「・・・禁煙は?」
「サダオの癖にうるさい」
何でこんな時間にこんなところにいるのだろうか。
相当驚いた。
「父さん、また泣くわね。面倒だわ」
百合が溜息をつくと紫煙が盛大に吐き出された。
隆雄がいないのに気付いたチチオヤのウザさを思うと、少し申し訳なく思う。
「・・・ごめん」
「謝るな、ムカツク」
何を言ってもムカつくのだから仕方ないだろうに。
「あ!」
百合が弾かれた様に立ち上がった。
「そうだ、冬彦があんたの事気にしてたわよ」
「・・・フユヒコ?」
誰だろう。
「ほら、本家の従兄弟さまさまの息子で、あんたと同い年の」
本家の従兄弟の顔をおぼろげに思い出す。
二回りも年上の従兄弟とは話した事もほとんどなければ、普段は全く行き来もない。
その子供なんていただろうか。
首をかしげていると、百合が口をゆがめた。
「あんたが覚えてるわけないか。・・・まあ・・・・・・がんばんな」
「・・・? うん?」
コンクリートにタバコを押し付けて火を消し残ったフィルタを携帯灰皿にしまうと、百合はおざなりに手を上げて家の中に姿を消した。
「・・・・・・はぁ・・・」
流石にこの時間なら混雑も避けられるはずだ。
重たく食い込むかばんの肩紐の位置を変えて、帰路についた。
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