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「自分」を殺して。 Ⅱ
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母さんは、俺のようにはなるなと祈紅に言い聞かせているようだった。
祈紅が俺の所へ来ると、普段祈紅のことは叱らない母さんが酷く怒ったらしい。
俺の所へ来てはいけないのだと何度も告げたが、祈紅はよくこっそり離れへ来た。
『おにぃちゃん』
『どうした』
縁側で俺が渡した飴を掌に乗せて眺めながら、祈紅は呟いた。
『さんたさんは、ほんとはいないの?』
『この間、何か貰ったんじゃないのか?』
『あのね、きくね、かあしゃまがさんたさんにいっとくっていったから、かあしゃまにいろいろおねがいしたの』
『ああ』
『でもね、いっこだけ、きくがじぶんでおねがいしたかったから、いわなかったの』
祈紅は、とても鋭い。
『そしたら、きくがおねがいしたのだけ、さんたさんかなえてくれなかった…………』
『……忙しいんだ。祈紅のばかり叶えているわけにいかないんだろう』
『だって!』
ぽろ、と涙が落ちるのが、見える。
『だってきく、それだけでいいっておねがいしたのに………………っ!』
ふぇ、と泣き出した祈紅を抱き上げて、膝に乗せた。
軽く揺すって、あやそうと試みる。
『祈紅』
『うぅ~…………ふっ』
『サンタクロースは、何でもくれる訳じゃない』
『っ、ひっ…………』
『祈紅が自分で頑張らないと、叶わないこともある』
『…………っ、ん』
こく、と頷いた祈紅は、何を願ったのだろう。
『きくね…………』
『ん?』
『じぶんじゃできないこと、おねがいしたの。さんたさんも、できないこと?』
『…………何を願ったんだ』
『かあしゃまが、もうおにぃちゃんにいじわるしませんようにって、おねがいした』
『………………っ』
『でも、かあしゃまおにぃちゃんにいじわるなの…………』
悲しそうな祈紅に、何も言えなかった。
ただ、ぎゅっと抱き締めてやるだけだった。
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