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雨のち曇 07
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「逃げないから…腕…離せよ…」
駅を通り過ぎた辺りで、下を俯きながら成美に伝える。
速度を緩めた成美は、聡に疑いの目を送りながら、ゆっくりと腕から離れていった。
相変わらず無言のまま暫く歩くと、住宅街の一角にあるマンションに着いた。
成美がそちらへ足を進めると、ここが目的地だということに察しがついた。
暗証番号を打つと、中の自動ドアが軽やかに開く。
成美が中に入るように横目で促すと、聡は渋々と足を進めた。
1つのドアの前に成美が立ち止まると、鞄のサイドポケットに入っていた鍵で解錠する。
ドアを開けると、漸く聡の持っていた傘に手を掛けた。
(え…マジで傘持って来いってそのままの意味だったのかよ…。)
まるでパシリじゃないか、と心の中で呟いていると、成美の声が聞こえた。
「入れよ」
心無しか暗めの声は、まだ成美の苛立ちが直っていない事が伺える。
「お邪魔…します…」
バタン、と聡の後ろでドアの音が響く。
鞄を両腕で抱えながらまごついていると、何をしているんだと成美が振り向いた。
とりあえず靴を脱いで中に入ると、机に鍵を置いた成美が椅子を引いて、そこに座るように促した。
誰もいない、シンとした部屋。
何故こんな所に連れてこられたのか、目だけをキョロキョロと動かしていると、キッチンから成美の声が響く。
「コーヒー、牛乳いる派?」
「え…ブラックは…飲めない…」
そんなに長居はしたくないが、有無を言わさない成美に対して、お構い無くという声が出せなかった。
コトリと目の前にアイスコーヒーが置かれた後、向かいに成美が座った。
一口コーヒーを飲む成美を見た聡は、釣られるように自分もコーヒーを一口飲む。
少し苦味が広がり、眉をしかめた。
「聞きてぇんだけど」
何の前触れもなく、成美が口を開いた。
「お前、一人がいいっつったよな?」
「…」
「なんで辛そうな顔で拒絶してんの?」
「…え?」
胸がざわつく。
自分の表情に自覚が無かった。
「そうだったか…?別に辛くは無…」
「それ、やめろ。」
「な、なにを?」
「変な嘘つくの。」
嘘をついている気は更々無かったが、成美の言葉にヒュッと息を飲む。
「う…そ…?」
まるで自分の中に響かせるように、低く震えた声が木霊する。
「一人がいいってやつ、嘘だろ。」
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