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Silence is tear drop 01
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テスト期間までの間、成美と聡の勉強会は、ほぼ毎日のように続いた。
成美の家への道程も覚え、最後の方は待ち合わせ場所も、途中のコンビニに変更になった。
勉強会では、たまに成美に生物を教えることもあったが、殆ど成美から英語を教えてもらう時間が多く、テスト明けにでもちゃんとしたお礼をしよう、と聡は考えていた。
そして来るテスト期間。
英語は3日目に控えていた。
テスト期間中は昼休みも無く、勉強会もしない為、成美とは暫く会えないだろう。
そして、相変わらずな教室での自分の存在に、寂しさが際立つのだった。
テスト期間中は成美と顔を合わせる機会も無く、メールでのやり取りだけをしていた。
コンビニでの待ち合わせも必要が無くなり、帰りは暫く個別で帰ることになった。
どこかもの淋しい気もしたが、テスト期間が明ければまた昼休みも来る為、聡は勉学に励もうと気を引き締める。
中間テスト最終日。
緊張しながらも迎えたテスト期間だったが、成美から教わった事と今でより頑張った復習もあり、全体的に期待できると感じていた。
最終教科のテストが終わると、教室内は騒がしくなった。
携帯を取り出すと、丁度成美からメールの受信が入った。
『お疲れ』
『お疲れー 今日なんか予定ある?』
『なんもないけど』
『今までのお礼になんか奢る。あんま金ないけど…』
『わかった。終わったら速水の教室行くわ。』
『了解』
送信ボタンを押し、携帯を鞄のサイドポケットに仕舞う。
さて何を奢ろうかと考えつつ、ふと顔を上げると、前の席に座っていた涼太が友達の輪に囲まれながら、横目で聡を見ており、不意に目が合ってしまった。
瞬間、ピクリと涼太の眉が動いたが、すぐに視線を外される。
なんとなく陰ったように見えた涼太の横顔に、聡は罪悪感から視線を離せずにいた。
「おい」
涼太とは違う声が聡に降りかかる。
ビクリと肩を強ばらせて声の方向に目を向けると、今まで涼太と話していたクラスメイトの一人だった。
「なに涼太のこと見てんの?」
「…え?」
「前にもチラチラ見てたし。なに?涼太のこと好きなわけ?」
「そ、そういう訳じゃ…」
「へー。嫌いなんだ。じゃあこっち見んなよ。」
先程まで騒がしかったクラスが、少し静かになる。聡の周りの温度が急に冷やかになった。
「…気色悪いんだよ。」
低めに呟かれた言葉が、聡に重くのし掛かった。それが合図になったかのように、クスクス笑う声も聞こえてきた。
「ご…ごめ…ん…」
か細い声で呟き、両拳を膝の上でギュッと握る。相変わらず耳にまとわりつり様な嘲笑が、聡の精神をジリジリと追い詰めていく。
「八木、やめろ。」
そんなに大きな声では無かったが、凛と通ったした声が涼太から発せられると、ピタッと笑い声が止んだ。
八木と呼ばれた生徒は、先程、聡に攻撃的になっていた生徒だった。苦虫を噛んだような表情で涼太に目を向ける。
その直後、担任が教室内に入ってくると、その場に直面していた生徒達が我に返ったかのように、一斉に各々の席に戻った。
聡だけが、その場に取り残されるかのように微動だにできなかった。
HRが終わると、明るい声がクラス中に響き渡り、パラパラと生徒達が教室から出ていく。
早々に席を立った涼太は、俯いたままの八木の席に向かい、肩を叩いて「帰ろうぜ」と声を掛けていた。
一人がいい、と涼太に伝えたにも関わらず、成美と一緒に過ごす聡。矛盾した行動は、涼太自身の存在が自分に必要ない、と言っているようなものだ。
先程の八木の攻撃に制止を掛けてくれた涼太に対し、罪悪感でいっぱいになった。
他のクラスのHRも終わったのだろう。徐々に教室の外の賑わいが増してくる。
先程、成美が教室に来ると言っていた事を思い出し、鈍い動きで聡は帰り仕度を始める。
席を立つタイミングでふと顔を上げると、八木と目が合う。嫌悪をあからさまに剥き出された視線を向けられ、聡は息を飲む。
直ぐに八木と涼太達は教室から出ていったが、聡は俯いたまま動けずにいた。
ーー良かったのか?
成美にいつか言われた言葉が頭の中でリフレインする。
グッと唇を噛み、鞄を持つ手に力が入る。
「速水」
自分の中で問いかけた人物の声色と重なる。
ゆっくりと顔を上げると、怪訝そうな顔をした成美と目が合った。
「あ…」
思いの外、乾いた声が出た。
聡は誤魔化すかの様に口角を必死で上げるが、成美は異様な聡の表情に、更に眉をしかめた。
「…行くぞ」
そう告げると、聡の背中を押す。少しよろめきながらも、聡は成美の前に立ち、教室を後にした。
低くも優しく響く声に、少しだけ聡の視線が揺らいだ。
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