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2人の距離のアルゴリズム 07
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放心状態の聡の腕を成美が引っ張りながら、早々に店を後にする。
背を確認し、誰も追ってきていない様子に成美は安堵の息を漏らした。
対する聡はまだ何が起きたのか把握できていない状態だった。
「速水?」
腕を放して呼び掛けるが、反応がない。
「…おい、速水」
顔を覗き込んできた成美に、聡は勢い良く1歩退いた。
「な…な…」
「悪かったって…でもあんぐらいしないと付いてきたぞアイツら」
「…あ、あのくらい…とは…」
「キス」
「キッ!!?」
単語を聴くと、声を上擦らせ、再度体を硬直させた。
数分前の出来事を思い出し、心臓が早鐘を打つ。
「軽くだしノーカンだろ」
「…そ、そうだよ、な」
「流石に初めてじゃ…」
「ハハハそんなわけ、ハハハハ」
乾いた笑いを漏らす聡の顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。その反応を見て察した成美は、嘘だろという目を向けた。
しかし、良く良く考えてみれば、友達もうまく作れない奴にキスも、ましてや手を繋ぐことすら無いに等しい。
成美がどう切り返すべきか悩んでいると、通りすがる人々の好奇な視線に気付く。
「…とりあえず、取り行くぞ。お前の服。」
「…うん」
気まずい雰囲気を纏ったまま、二人は先程の店に移動した。
お互いに言葉を交わす事も無く店に到着する。
聡は会計を済ませると、店の外で待っていた成美の方へ向かった。
自動ドアの向こうに、アンニュイな成美の横顔が見える。
このままギクシャクしたまま過ごすのは嫌だと思った聡は、声を掛ける前に自分の両頬をパチンと叩いた。
「お、おまたせ!」
先程まで俯いたままの聡が急に元気な声を発した事に少し驚いた成美は、目を少し見開く。
「神崎も服買うんだろ?行こうぜ!」
「…なんでいきなり元気になってんだよ」
「え!?い、いつも通りだ、けど?」
「…あっそ。俺行きたい店行くけど、お前、どうする?」
「え…っと。ど、どうしようかなあ」
「別に…帰ってもいいけど…」
「…え?」
いつもより素っ気無い成美の返事に、少しだけショックを受けた。
「いや、俺も服買うの…付き合ってもらったし…」
「無理しなくていいし」
「む、無理なんてしてねえよ!?」
「…あっそ」
溜息を吐くと、成美は聡の横を通り過ぎた。
ズキリと胸が痛む。
慌てて成美の後ろを付いて行った。
「か、神崎?怒ってんのか…?」
「…別に」
「じゃあ…なんだよ…」
「…なんもねえよ」
スタスタと成美の歩く速度が増していく。
「お、俺…もう気にしてねえよ?」
「…」
「マジで。全く!これっぽっちも気にして無いから!」
「…」
「おい、神崎!…あ、もう忘れたから!」
極力明るい声で聡が返すと、成美がピタリと止まった。
急に止まった背中にぶつかりそうになるが、聡は成美の機嫌を直せたと思い、少しホッとした。
しかし。
「…付いてくんな」
聡の顔も見ずに成美が言葉を吐き出す。
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
言葉の意味を理解した頃には、成美の背中は走らないと追いつけない距離まで遠くなっていた。
分かり合えたと思ったのも束の間、聡はまた、成美が分からなくなった。
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