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forget me not 01
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聡は重い足取りで家路を辿っていた。
成美を慰める方法も思い付かず、何も言わずに出てきてしまったのだ。
(最悪だ…俺…)
学校の事もあったが、成美との関係が絶たれると考えると、頭が痛んだ。
家に着いて夕飯の準備をする母親に、食欲が無いことを隠す為、食事は済ませたと偽る。
一旦、自室に戻って部屋着に着替え、下着を直ぐ洗濯機に投げると、キッチンから母親に声を掛けられた。
「そういえばテスト、どうだったの?」
「ああ…結構、良かったよ」
「あら珍しい!」
「まあ…友達に…教えてもらっ…」
-全部忘れろ-
自分の口から出た単語に、聡は声を詰まらせる。
「聡…?大丈夫?」
「あ!ごめん、大丈夫。もう寝るわ。」
「え!?まだ19時じゃない!!」
母親の声を背に、聡は足早に部屋に戻る。
ドアを閉めると聡はズルズルとその場にしゃがみこんだ。
静まった部屋に、外からシトシトと雨が降る音が聞こた。
成美との友情関係が終わるのだ。
嫌だと思う半面、それは自分の寂しさだと考えてしまうと、どうしても言い出せない。
不意に自分が放った鞄が視界に入り、入れたままの壊れた携帯と、壊れた弁当箱を思い出す。
母親に伝えるタイミングでは無いと考えた聡は、弁当箱を袋ごとビニールに包むと、後日破棄する事にした。
成美との事も同じように捨ててしまえるのだろうか。
このまま床に就けば、また明日がやってくる。
迎えた明日には、もう成美は近くに居ないだろうか。
忘れられない。忘れて欲しくない。
弱音を溜めずに吐き出せと叱咤された不器用な優しさも、死んだ姉と似ているから放っておけないと初めて見た脆さも、先程感じていた体温も、成美との些細な出来事ですらも、聡の心をジワジワと侵食していた。
「…忘れんなよ…神崎…」
強く目を瞑る。
手にしていたビニール袋がクシャリと音を立てた。
-逃げんな-
何時ぞやの成美の言葉が聡を触発した。
鷲掴みにされるような痛みが心に広がっていく。
グッと唇を噛み締めた聡は、部屋から飛び出す。
背後から母親の声が聞こえたが、振り向くこと無く、雨の中を走り出した。
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