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forget me not 03
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梅雨時にひく風邪ほど、面倒な物はない。
湿気が強く、蒸し暑い中、更に熱に魘される日々。
それに加えて、気持ちが急降下する出来事ばかりだ。
3日目にして漸く微熱くらいには下がってきたが、まだ微妙に痛む喉と鼻水に、もう1日だけ安静にすることにした。
携帯も手元に無い為、暇な時間が過ぎる。
そういえば読み途中だった漫画があったと読み始めたが、結局薬の副作用で直ぐに寝てしまった。
どれくらいの時間が過ぎただろうか。
玄関の呼び鈴で、聡は目を覚ました。
今日は平日で、父親は仕事。
部屋の時計を見ると、まだ母親もパートから帰ってきていない時間だ。
重い足取りで玄関に向かう。
「はーい…」
ドアを開けると、聡は一瞬固まった。
そこにいたのは涼太だったからだ。
「は、長谷部…」
「…学校のプリント。届けに来た。」
「あ…ありが、とう…良く家…わかったね…」
「先生に聞いたから」
「あ、そうなんだ…本当わざわざ、ありがとう…」
「…体調、もういいの?」
「う、うん。明日には、もう行けると思う…」
「…そっか。」
「…うん」
「…あのさ。速水」
「…な、なに?」
「なんか…ごめんな。」
「え!何が!?…ゲホッ」
久々に涼太と話せている事にも驚いたが、いきなりの謝罪に少し大きめに声が出てしまい咽てしまった。
「…俺、ちょっと意地張りすぎてた。お前に謝りたかったけど…タイミング逃しちゃって…」
「…いや」
「速水が俺と、あんま仲良くなりたくないって…いうのも…ちょっとショックだったし…」
「ち、違うんだ!」
「え?」
聡は両拳を握り締める。
もう逃げたくない。逃げても何も良いことは無いのだ。
始まっていない事を恐れていても仕方が無い。成美に叱咤された言葉が、聡の背中を押してくれた。
「お、俺…長谷部と…仲良くしたくない訳じゃなくて…その…あんまり人と接する環境に慣れて無さ過ぎて…あの時は直ぐに言えなかった…だけで…」
「速水…」
「俺こそ、ごめん。ずっと謝りたかったんだ。傷つけてごめん長谷部。あの、俺で良かったら、と、友達になってゲホゲホッ!」
思い切り頭を下げたタイミングで、また咽る聡に、涼太は噴出した。
止まらない咳に口を押さえながら涼太を見ると、見慣れた涼太の笑顔があった。
聡もホッとして、笑みが零れた。
「速水、俺やっぱ速水の事、好きだわ!」
バサリッ
長谷部から少し距離が離れた後方で、何かが落ちる音が聞こえた。
聡は音に気付き目を向けると、袋から健康飲料水のペットボトルがコロコロと転がった。
「あれ?誰…?」
落ちた袋を拾い上げようと、その場へ歩み寄ったが、持ち主は既に居なくなっていた。
疑問に思いながらも袋の中を覗き込むと、聡はハッとした。
--- もしかして、神崎…?
しかし、家を教えていないのに来るだろうか?
「速水?」
涼太の声で我に返る。
「あ…これ、誰かが持ってきてくれたみたいで…」
「え?」
「ほら…」
「…本当だ。え、速水ん家知ってるヤツいたの?」
「いや…長谷部が初めての筈だけど…」
「…!?そ、か。」
少し顔を赤らめ、涼太は俯く。
「?どうしたんだ?」
「いや、なんでもない。あ、今日はもう帰るわ。そういえば携帯、全然繋がんなかったけど」
「あ!そうだ。今壊れてて…直したら、また教えて、長谷部の」
「なんだ~そうだったんか!俺てっきり拒否られてんのかと思ったわ」
「え!ごめんな!絶対拒否らないから!」
「…本当に?」
ゾワリッと聡の背中に悪寒が走る。
急に涼太の強い視線が向けられたからだ。
「…え?長谷部…?」
「あ、ごめん。もう帰るな!じゃあまた明日!」
先ほどのは気のせいだったのか、またいつもの笑顔に戻り、涼太は軽く手を振って駅へと去っていった。
涼太からの好意の意味も分からずに、健康飲料水と、何時ぞやの成美との勉強会で、聡が美味しいと称したお菓子が入った袋を持ち、部屋へ戻るのであった。
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