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逃げられない
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葉月と適当に雑談をし、少し元気になった暁はそろそろ電話を切ろうとすると『待って』と葉月に止められた。
『あんたさー…学校で何かあった?』
「えっ…」
ギクリと暁の体が強張った。
まさか、苛めにあっています、なんてなかなか言えない。
なにより、葉月を心配させるのは嫌だった。
「なにも、ないよ?どうして?」
『いや、進級やテスト以外で不安になるなんて珍しいなーって思ってさ。声も元気ないし』
葉月は暁の事をよく見ていた。
両親よりも暁と一緒にいる時間が長い為、些細な事でもすぐに見抜く。
(言ってしまえば、楽になれるだろうか…)
暁は呼吸を吸い込み、言葉を出そうとしたが、出なかった。
廊下の奥の方で、静かに佇みこちらを見ている人物がいた。
西城だ。
「ーーっ…」
『暁、どうしたの?暁?』
「あ、ごめん、次に電話を使う人がいるから…」
『風呂とトイレだけじゃなく、電話まで共通だと大変ね~分かった、またね』
「うん…またね…」
ーーガチャン。
丁寧に受話器を置き、西城の方を見た。
今度は目を逸らさず、じっとこちらを見据えている。
腕を組んで壁にもたれかかり、ピクリとも動かない。
(一体、何を考えているの…?)
悪い人ではないことは確かだ。
しかし、善人というわけでもなさそうだった。
どちらにも手を貸さず、ただずっとその様子を見ているだけの傍観者。
敵とも味方とも言えない中途半端な立ち位置。
「………」
その立ち位置に、西城はいる。
笑うわけでも泣くわけでもなく、自分の存在意義がそこであるかのように。
「…呼ぶのか」
「え…?」
「…助けを呼ぶのか」
珍しく西城が自分から話しかけてきた。
助けを呼ぶのか聞いてくるということは、暁と葉月の会話は聞かれていたのだろう。
黙りこくっていると、西城が近づいてきた。
(大きい…)
暁の真正面に立ち塞がる西城は迫力があった。
顔も一切表情を変えず、唯一動くのは口だけだった。
「…お前が山上達にされていることは分かっている。だが、見ていない奴らからしたら、お前は何も被害を受けていない」
「っ、そんな…」
「…平日のお前と今日のお前を見比べても、何も大差は無い。されている現場を除けば、の話だがな」
「………」
その通りだ。
暁は暴力をふるわれたこともなく、苛めの現場を他の誰かに見られたことはなかった。
机のゴミ埋めは流石に周りに人がいたが、犯人の目撃情報はなく、当事者しか知られていない。
精神的にくる苛めばかりで、物理的な証拠がないのだ。
葉月が信じても、学校側が信じてくれないだろう。
「…それと、お前は助けを呼べない」
「ど、どうして…?」
「…今の電話で助けを呼ぶことが出来た。だが、お前はそれをしなかった」
「そ、それは…君がいたから…」
「…本当に助けを求める奴は、目の前に相手がいようと構わずすがる」
「………」
図星だった。
息を吸い込んだあと、西城を見る前に言葉は止まっていた。
たった一言を伝えるだけなのに、重く、勇気がいるものだと実感させられた。
「………」
何も言わない暁に呆れることも怒ることもなく、西城は部屋に戻って行った。
暁も、浮かない表情のまま自室に戻った。
翌日の放課後。
暁は山上達にトイレに呼び出され、囲まれて逃げ口を塞がれていた。
少し距離を置いた所に西城もいた。
「何で呼び出されたか分かるかい?暁くん」
「…分からない」
「そうだろうなぁ。お前、どうしてこんな仕打ちを受けるのぉ?って顔してたもんなぁ」
「無自覚はよくないよね~」
山上の問いかけに答えると、村岡と片山が煽ってきた。
顔が近すぎて思わず背けると、山上に顎を掴まれ無理矢理正面を向かされる。
「いたっ…」
「へぇ、随分と綺麗な顔をしてるじゃん。女みてぇ」
「ーーっ…」
ーー女の子かと思った。
過去にあった出来事を思い出してしまい、暁は涙目になった。
それを見た山上はゲラゲラと笑いだした。
「なんだぁ?女って言っただけで泣くとか、弱いにも程があんだろ」
「山上、これだったらいい顔するんじゃねぇ?」
「かもな」
(また、顔の話…)
ショックでぼうっとしていると、山上が顔のすぐ横の壁を殴り、暁の意識を戻した。
「お前ってさ、この三年間ずっと学内1位なんだってな?」
「…え、うん」
「その1位の秘訣ってのはさ、もしかしてその顔でせんせー達を誘惑して贔屓にしてもらってんじゃねぇの?」
「え、なんで、僕は、そんなことっ…!」
酷い濡れ衣だ。
だが、山上達は暁の言葉に聞く耳を持たなかった。
「その綺麗な顔でシてる時の顔さ、俺達にも見せてみろよ」
「シ、てる…?」
「わっかんないの~?自慰だよ、自慰」
「じ、い…?」
「マジかよ。山上、こいつ超がつく童貞だぜ」
片山の助言も、村岡の呆れたような発言も、暁は内容を全く分かっていなかった。
「チッ、どんな顔するか見てみたかったんだけどなぁ…さすがに触るのはゴメンだ」
「俺も」
「オイラも~」
「えっ…と…?」
山上達は興ざめというような顔をして暁を離した。
このまま帰してくれるかも、という甘い考えが暁の頭を過った。
「西城、お前もコイツと同じ寮だよな。コイツの体に教え込んでやれ…泣くほどな」
山上は去り際に西城にそう吹き込むと、トイレを後にした。
「言っとくけど、やらねぇってのは無しだぞ。片山を監視につけとくからな。お前はいまいち掴み所がわかんねぇ奴だし」
「ちゃんとやってね~」
「………」
「相変わらずだんまりかよ。本当にお前って人間?」
山上達が出ていき、トイレには西城と暁だけになった。
話についていけず混乱している暁を余所に、西城は静かに溜め息をついた。
「…面倒ごとは俺任せか」
「めんどう…?」
西城は暁の方を見た。
表情は変わっていないものの、どことなく哀れそうな目付きをしていた。
「…今晩、風呂から出たら俺の部屋に来い」
そう言うと、西城もトイレから出て行った。
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